―17
目の前にいるのは、美しいブロンドと翡翠の瞳の青年。大きめな襟のYシャツには大きな深緑の宝石のループタイがついている。金のラインが入った上着は、上質で気品があった。黒いズボンも、膝まである長いブーツも、高価なものに見える。胴が短く足が長い、細く長身のモデル体型。腰に携えた剣も宝石がついていて、高貴な者だと一目ですぐに理解した。ジオスと負けず劣らずの美しい青年は、二人いる。同じ顔、同じ背、同じ服。間違えがないほど、瓜二つ。幻かと思ったけれど、現実らしい。
麗しい双子に私は浚われた。
「なぁんで、お前らは先回り出来たんだよ?」
「さっさと答えなきゃ、指を切り落とすぞ」
ニッと口元をつり上げて白い歯を見せながら、双子は問う。私はポカンとした。声まで同じだ。ここまで同じ双子は初めて見る。浚われた上にこれだと、混乱してしまう。
「おい、喋れよ」
「てか、お前誰だよ」
「なんでメラマヴロがいるんだよ」
目の前で交互に喋られると、目が回りそう。
「てか」
二人が同時に口を動かした。
「なんでエレクドラーロをぶら下げてんだよ。オレの国の秘宝だぞ」
二つの声は同じだから、一つのものに聞こえる。奪われた私のナイフの先が、顎の下に当てられた。二人は私の首にぶら下がる宝石に注目している。
「アルートゥリア王から所有を認められております、"殿下"。エレクドラーロに選ばれた者です、ラメリーと申します。魔物討伐一行の報告係として、メラマヴロとともに加わりました」
私は取るべき態度はこれだと思い、丁寧に答えた。この双子は、王様に似ている。目の形が似ているし、その身なりと双子ってことで、彼の後継者だと予想が出来た。そして、捜していた"クロロ"だ。
「二日前に狩人の森を抜けてきました。お二人と合流するため」
「ぷはっ! 狩人の森を無事抜けたのか、お前ら!」
双子王子は同時に笑い出す。肩を震わせるタイミングまで一緒だ。分身の術みたい。すごい。
「どうやったんだよ! 一人で抜けるならともかく、あの人数で見付からなかったわけじゃないよな?」
右にいる王子が問う。
「まぁいいや。なんで合流するって、話になったわけ? 別々に魔物を殲滅するって決めたはずなんだけど。お前が文句言ったわけ?」
左にいる王子が問いながら、ナイフを突き付けた。
「殺すぞ」
二人は同時に冷たく吐く。ジオスやポル達が、嫌悪を浮かべた理由がよくわかった。あの王様と血が繋がっているかどうかも疑わしい。この双子王子は、性格に問題がある。むしろ、大問題。人を拉致して、ナイフ突きつけて、殺すと吐いた。それも二人揃って、笑顔だ。
「……私は、陛下に一行の様子も報告するように命じられています。だから、お二人に会うべきだと決まったのです」
「はぁ? 様子? あのじじぃは物好きだよなぁ、全く」
「ピンピンしてるよ、そう伝えておけ」
王様をじじぃ呼ばわり。この二人はどう育ったのだろうか。疑問を持つけれど、知らなくていいや。私を拉致して情報を探る辺り、レーガ達を信用していない。協調性がない以前の問題。これは説得できないし、なによりしたくない。私もこの二人とは旅が出来ない。言う通り二人はピンピンしているから、王様には元気にしているとだけ報告しよう。
皆から随分離された。魔法対決の音は聞こえない。もう終わったのかもしれない。もしかしたら、私が浚われたことを知ったのかも。ロサはすぐに戻って、消えたと教えてくれただろう。食い付くように見ていた私が、自分からいなくなるはずない。つまりは浚われたと考えてくれる。今、探しているはずだ。知りたいことは知ったから、双子王子も解放してくれるだろう。
「エレクドラーロを召喚しろよ。主だって証明しろ」
「……はい」
座らされた地面から立ち上がろうとしたのに、左にいる王子にぺしっとナイフを当てられて命令された。
「いや、メラマヴロは呼ばれたら厄介だ」
「それもそうだ」
コロッと、命令が取り消される。メラマヴロの強さを知っているなら、私を拉致しなければいいのに。ああ、きっと、メラマヴロは心配しているだろう。
「では、解放していただけませんか? メラマヴロは私とエレクドラーロを守ることを命じられています」
「だろうな。てか、お前どこのどいつだよ?」
「どういう経緯で秘宝に選ばれたんだ?」
早くメラマヴロ達の元に戻りたいのに、双子王子は解放してくれない。
「私は異なる世界から、エレクドラーロに導かれてこの世界に来たのです」
笑顔を作って答えておく。双子王子は、コテンと首を傾げた。まるで鏡に映したみたいに揃った動きだ。
「世界のよそ者かよ? お前」
「はい。アルートゥリア陛下は親切に世話をしてくださり、塔に住まわせてくださりました」
「塔に住んでたのかよ」
「物好きだな、本当に」
知りたいことを教えて解放してもらうとしたけれど、双子王子は世界のよそ者に興味を抱いてしまったらしい。しゃがむと同じ顔を近付けてきた。綺麗な顔で、にやにやしている。
「エレクドラーロの主が」
「なんで報告係をやることになった?」
「堂々とぶら下げて。なんで?」
また交互に口を開いて、問う。質問がコロッと変わる前に、私は笑みを崩さないまま答えた。
「私は作家です。塔に住んでいる間も物語を書いていて、陛下はとても気に入ってくださったのです。それで私の書いた報告書を読みたいと望んだのです」
「フン、作家かよ」
「よそ者で」
「エレクドラーロの主で」
「作家かよ」
双子王子は、鼻で笑う。くだらないと言いたそう。私は決して笑みを崩さない。
もう興味はなくしたらしく、ナイフを手放す。地面に突き刺さったそれを、私は抜いてホルダーにしまう。やっと解放されるみたい。立ち上がったら、一瞬にして二つの刃が鋏のように首を挟んだ。双子王子の細い剣が、向けられた。
「ゲームに勝ったら」
「無傷で返してやる」
「どっちがクロロキか」
「どっちがクロロクか」
「当てれば勝ち」
「外れれば」
双子王子は楽しそうに「バッツゲーム」と同時に声を弾ませる。
双子当てゲーム。物語でよくある双子ネタだ。当ててしまうヒロインに恋してしまう話を、何度か読んだことある。実際にあるのかと、感心してしまう。
二人合わせてクロロと呼ばれているし、区別ができるような格好もしていないから、たぶんこのゲームはよくやっているのだろう。
「……私、お二人のことをなにも知らないので当てられません」
「……」
まさに鏡から飛び出したみたいに瓜二つな上に、どっちがクロロクでどっちがクロロキかもわからない。当てられるわけがない。不利なゲームだと言えば、双子王子は目を丸めた。すぐに、ニヤリと口元をつり上げる。
「なにそれ」
「オレを知れば当てられるとでも」
「言いたいわけ?」
「……恐らく、時間をかければ、見分けがつくかと」
洞察力は高いと自負しているし、ずっと見ていれば違いを見付けられるはず。複製された人間ではないのだから、一つや二つ違いが見付かる。時間をかければの話だけれど。当てずっぽうが嫌なら、やらなくていいゲームだろう。さっさと解放して。
「……じゃあ、暫くお前一緒にいろよ」
「!?」
双子王子は笑みを深めたかと思えば、とんでもないことを言い出した。いや、私を解放して。フェアにゲームをする話になってしまった。私がバカか。当てずっぽうで言えばよかった。でも怪我させられたくない。メラマヴロが責任感じちゃう。無傷で戻るには、当てて解放してもらうしかない。合流したら戦闘が始まりかねないから、双子王子に手を引かれるがまま私は歩くしかなかった。
「それで……どっちがどっちですか?」
「オレがクロロキ」
「オレがクロロク」
私の右手を持つ王子がクロロキ、左手を持つ王子がクロロク。
「二人合わせて、クロロ」
私を振り返って、同時に言った。二人合わせて、クロロ王子。右がクロロキ、左がクロロク。右がロキ、左がロク。
双子王子は、白馬を二頭持っていて、一頭には荷物を運ばせていて、もう一頭には私を乗せて、二人で挟むように歩いた。その際、入れ替わったから、左にロキ、右にロクとなる。うむ、シャッフルしたよ、この双子。当てさせる気ない。
「あの。メラマヴロ達が心配するので、手紙を送ってもいいですか?」
「ぶぁーか、どの方角か、わかっちまうじゃねぇか」
「じゃあ書き置きだけ」
「書き置きだけな」
双子王子も、メラマヴロ達と合流することを望んでいない。私が無事だと言うことは知らせておきたくて、許可を得てバックから紙を取り出して膝の上で書く。左右から双子王子は覗き込んで、確認した。じっと見られては、書きずらい。
「はーい、これなぁ」
書き終えると、ロキが紙を捨てた。もっと見付けやすいところに置いてほしいのだけれど。まぁ、赤い荒野のど真ん中に落ちていれば目立つから、こっちに来れば見付けてくれる。
「お二人の魔物討伐は順調ですか?」
「とーぜん」
「狩人の森の南方面の巣を二つ」
「壊滅させた」
「おお、二つもですか。陛下に報告しますね」
この南方面にあった魔物の巣を二つ、壊滅済み。二人でもやっぱり強いみたいだ。別の紙にメモしておく。
「で? どっちがどっちかわかった?」
「まだ大して話してないじゃないですか……。とりあえず、あなたがロキ殿下で、あなたがロク殿下ですよね」
時間をかけるって話になったのではないのか。せっかちな人だと思いながら、一先ず確認する。すると、私を見上げてきょとんとした。上から見ているせいか、二人が幼く見える。容姿は優美だけれど、瞳の中は無邪気。いや、子どもっぽいと表現するべきか。そう言えば、王様から年下って聞いた気がする。
「なに、そのロキとロクって」
「なに勝手に短く呼んでるんだよ」
「あぁ、勝手に失礼しました。クロロキ殿下、クロロク殿下」
噛みそうだったから、つい短く呼んでしまった。気に障ったなら、すぐ謝る。平気で剣先突きつけてくる双子だから、あまり怒らせない方がいい。
「……まぁ、別にいいけど」
「つか、反対だし。オレがクロロキ」と右の王子が言う。
「オレがクロロク」と左の王子が言った。
「えっ。でもさっき、あなたがクロロキって名乗って、あなたがクロロクって名乗りましたよね」
「は? ちげーし」
「反対だよ、ぶぁーか」
目を放してなかったから、合っているはずなのに、双子王子は否定する。混乱した。
「嘘言わないでくださいよ、最初にロキ殿下は右にいて、今は左に移動したでしょ」
「そういう覚え方するんじゃねーよ」
「見分けがつくって言ったのはお前だぞ」
「うぎゃ!?」
足を持ち上げられたかと思えば、ひっくり返されてしまう。馬のお尻に背中をぶつけたあと、落ちてしまった。酷い、紳士じゃない。拉致の時点で、紳士じゃないか。エレクドラーロに、乗って戻っていいかな。
「ん?」
双子王子の足が止まった。どこからともなく現れた白い蝶を目で追いかけている。かと思えば、蝶を追いかけて歩き出した。私もついていくと、蝶は岩陰の中の小さな花畑に留まる。双子王子は馬の手綱も放して、覗き込んだ。私は純白の毛を撫でて手綱を握って、二人の背中を見た。
「花……好きなんですか?」
訊ねてみると、左にいるたぶんロキ殿下が答えた。
「文句ある?」
怒った風ではなく、むしろ機嫌が良さそうに、私に返す。好きなんだ。頭に城の庭園が浮かんだから、ちょっと口元が緩む。
「城の庭園、好きでしたか?」
「あー、もう一年近く見てないなぁ」
「相変わらずだろうなぁ」
ちゃんと答えないけれど、二人は柔らかい表情をして小さな花畑を見下ろす。好きなんだ。
「私は毎日のように行きました。エレクドラーロも蝶と戯れるのが好きでしたよ」
「ふぅん……」
「……それ、グラトですね」
荒野によく咲いている黄色い花。星形の花びらをしている。
「よそ者のくせに、花の名前を知ってるのかよ」
「本で読みました。本を読んで、この世界の言葉を学びましたので」
「あっそ」
そっけない言葉だけれど、表情は柔らかいままだ。花を話題にすれば、上手くやっていけそう。
「この近くにある街、花屋がたくさんあって花の香りが満ちていましたよ」
「ああ、知ってる」
「でもお前達が通過したなら」
「行かないけど」
花の香りに満ちた街だから気に入ると思うけれど、行かないなら仕方ない。
「じゃあ、花の名でしりとりしようぜ」
たぶんロク殿下が、グラトを一輪摘んだ。そして私の耳にかけた。たぶんロキ殿下が、私をひょいっと上げて馬に戻す。また落とす気じゃないだろうか。警戒しつつも、双子王子と花の名でしりとりをした。すぐに二人は最後の言葉を一つに絞って、私に答えられないよう追い込んだ。やっぱり紳士じゃない。意地悪だ。私が降参すると、双子王子はケラケラと笑った。
進んでいると、別の花を見付ける。野いちごだ。岩みたいな壁沿いにずらりと並んでいたけれど、残念ながら花だけで実っていない。たぶんロク殿下が、また一輪摘むと、私の腕を引っ張って屈ませてから別の耳にかけた。ロク殿下は、人の耳に花をかけるのが好きみたい。野いちごの花は、少し甘酸っぱい香りがした。ロキ殿下も一つ摘むと、匂いを嗅ぎながら歩いていく。
「そーいえば、お前、名前なんだっけ」
「ラメリーです」
私の耳の花を見ながら、たぶんロキ殿下が問う。覚える気はなかったみたい。最初に口を開くのは、いつもロキ殿下な気がする。
「ラメリー。聞いたことあるよな……どこだっけ」
「あ。じじぃが娘につけたかった名じゃん」
「孫はラメリーと名付けろと言わんばかりだったもんな」
王様が娘につけたかった名前を、私にくれた。娘のように可愛がってくれているってことか。嬉しすぎて自然と笑顔になる。元々、孫のように可愛がられていると自負しているけれど。王様大好き。
「なに。お前相当可愛がられちゃってるわけ?」
「はい。結構可愛がられています」
「にやけすぎ、キモイ」
にやけすぎと言われてしまい、頬を押さえる。
「じじぃのお気に入りか」
「はい、傷付けたら怒られますよ」
「調子乗んなよ。じじぃなんか怖くねーし」
余計なことを言ってしまい、また足を持ち上げられてひっくり返されて、馬から落とされた。二人は笑う。……酷い。悪魔王子だ。
「あなたがクロロキ殿下、あなたがクロロク殿下。当たりましたよね? 戻っていいですか?」
指差して二人の名前を言い当てる。双子王子は、ニヒルな笑みを浮かべた。
「理由は?」
「最初に名乗ったからって」
「理由はだめだぜ」
当てずっぽうなら許さないと言わんばかりに、携えた剣に手をかける。
「クロロク殿下は私に花をくれました、二回とも。クロロキ殿下は毎回先に口を開きます。当たってますよね?」
胸を張って言えば、的中したらしく双子王子が面食らったような表情をした。
「……まぐれだね」
「たまたまだ」
「じゃあ……三回勝負にします? 三回当てたら私の勝ち」
「フン、いいぜ」
「まぐれだって」
認めてくれるまで付き合わないといけないのか。もう馬から落とされたくないから、私はしぶしぶ提案した。外見では見分けられないけれど、行動で見分けられる。……二人が騙そうとしなければだけれど。ニヒルな笑みを再び浮かべた辺り騙しそうだから、見張っておこう。
「お前、ずっと後ろ振り返ってるけど」
「そんなにアイツらが心配なのかよ?」
「お前が一番弱いんだろ」
何度も後ろを振り返ることを指摘された。
「一番弱いからこそ、一番心配されているんです。……血眼ですよ、今頃」
「だろうな」
「守る対象を浚われたなんて知ったら」
「メラマヴロがぶちギレるよな」
クククッ、とおかしそうに双子王子は喉の奥で笑う。
「今、クロロク殿下が先に口を開きましたね」
「……」
やっぱり、私を騙そうとしているみたい。
「お二人はまるで以心伝心しているみたいに喋りますね。思考回路も全く同じなのですか?」
相談もなく、仕掛けてくる。私をひっくり返した時も、合図もしていないのに同時だった。
「ぜーんぶおんなじ。オレ達は一つなんだよ。誰もオレ達を見分けられるわけない。母親さえもな」
にんやりと笑って、双子王子はまた声を揃える。
「自分自身では、ちゃんと見分けてますか?」
「は? どういう意味?」
今までロク殿下の後ろを歩いていたけれど、ロキ殿下の後ろに移動して彼に訪ねてみた。
「名前を交互に使い分けているのかなぁと思いまして」
「ぶぁーか、ちゃんと自分の名前を使ってるよ」
「騙す時はあるけれどな」
「それならいいですけど」
名前までシャッフルして共有されては、見分けがつかない。ちゃんと正解があるならいい。私はロク殿下の後ろに戻る。
「アルートゥリア陛下も、見分けがつけられないのですか?」
「とーぜん。……あ、でも」
「あの人は……」
「……?」
双子王子は馬越しに顔を合わせたけれど、言葉の続きを言わなかった。
「このゲームをクリアした人はいますか?」
「いねーよ」
「だから今日会ったばかりのお前が」
「クリアするわけねーよ」
二人を見分けた人は誰もいない。それを聞いてある疑問が浮かんだので、ブーツでタタッと走り、馬の前に立つ。そっと馬の顔に撫でてやりながら、足を止めた二人を交互に見てから訪ねる。
「それって、嬉しいことですか? 悲しいことですか?」
答えは、嬉しいだの楽しいだのと言うと思った。しかし、二人はまた面食らったような表情をして固まる。
「……楽しくないゲームをしているのですか?」
そんなゲームをやる必要があるのか。
「楽しいに、決まってるだろ」
ロキ殿下が、言った。ロク殿下も口を開きかけたけれど、言いそびれたみたい。
「馬に乗れよ。走る」
ロキ殿下が馬に跨がれば、ロク殿下が私の腰を掴んで上げて、ロキ殿下に引っ張ってもらい乗る。もう一頭の白馬にロク殿下が跨がれば、荒野を走り出した。
「クロロキ殿下が、兄ですか?」
「……」
耳の近くで訪ねたのに、ロキ殿下は答えてくれない。ロキ殿下の方が主導権があって、兄に思えた。
ジオスが期待した通り、私なら上手く手懐けられそう。まさに懐柔できるか、試してみよう。そう考え直してみた。ジオスの時のように打ち解けられれば、皆が一緒に旅が出来て、今後も王様に連絡できる。メラマヴロ達が置き手紙を受け取ったことを願い、大人しく双子王子といた。
その後も双子王子は立ち位置を移動して何度もシャッフルしたから、最初にクロロキとなった方はどちらかわからなくなる。まぁ、会話しているうちに、先導する方がクロロキとわかるだろう。
焚き火は見付かるからと、二人が持っていた食料をもらった。何故かフルーツが多い。熟していて美味しかった。もらった花はしおりにでもしようと、日記に挟んだ。
夜の荒野は、気温が下がる。それを理由に双子王子に挟まれて眠るはめになった。寝具が二人分しかないのも理由。流石に寄り添われると強張った。野宿だから仕方ないと言い聞かせて、早く意識を手放す努力をする。焚き火がないからずっと満点の夜空が見れた。相変わらず満遍なく星が瞬いている。
「拉致った時も思ったけれど、お前って薔薇の香りがするな」
左からそっと囁かれて、私はギョッとした。私の三つ編みに触っている。
「確かに。香水の薔薇じゃなくて、生の薔薇の香りだ」
右からも囁かれたかと思えば、腰に腕が回された。
「あー、えっと、薔薇風呂に入りました、から。でも二日前の話でして」
街を出る前に、ポル達とまた薔薇風呂に入ったけれど、昨日は身体を拭いただけ。だから、近付いてほしくないのだけれど。二人は気にした様子もなく、ギュッとまた寄り添ってきた。
「薔薇はもう一ヶ月は見てないなぁ……」
「肌にも匂い染み付いてるじゃん」
左右から同じ声が耳に吹き掛けられて、目が回りそう。それよりもぞわぞわしてしまい、今すぐにでもこの場から逃げたくなる。男らしく低くて、でもやんちゃそうな声。
「フッ。なに固まってんの?」
「ぶぁーか。手なんか出さねぇよ」
次は喉で笑うような声を吹き掛けられて、思わず目と口をギュッと閉じた。その手の身の危険がないことには安心するけれど、この状況はあまりにも心臓によくない。
「お前、顔熱いぜ?」
右の頬に彼の鼻先が触れて、クスクス笑う声も耳に触れる。私の反応を気に入ってしまったらしく、二人は執拗に耳に囁きかけてきた。
「期待してる?」
左から、指先で輪郭を撫でられる。
「応えたくなるなぁ」
右から、首筋に息を吹き掛けられて、私はビクリと震えた。
「エレクドラーロを召喚してっ、逃げますよっ」
「クククッ」
左右で二人が笑う。からかわれている。もう本当に逃げてやろうかと思えば、二人の腕がしっかり巻き付いてきた。
「おやすみ、ラメリー」
耳に唇を押し付けたその囁きが最後。そして一番、強力だった。悲鳴を上げてもおかしくなかったけれど、私は熱が上がったまま固まる。顔から湯気が出そうとはこのこと。性格はともかく、美しい青年に腕を回されて挟まれているこの状態で、眠れるわけがない。
逃げたいけれど、双子王子がやっと私の名前を呼んだ。少しは受け入れられたという証拠だから、この状況にも我慢することにする。明日は二回当てて、そして皆で一緒に旅をしようと説得をしよう。上手くいくことを夜空に願って、目を閉じた。
20150906