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劇中シナリオ(案1)

作者: 伊南恭一

「いいか、油断しないでいこう」

手に白金の鎧を持ち、丁寧に布をかけながら男がいう。


「今日はいままでの戦いとは違うのはみんなわかっていると思う。心してかかろう」

そうつぶやく白金の鎧の主は薄明かりの下、普段であれば光を放たんとばかりに輝いているであろう金髪の下に隠れて表情はうかがい知ることはできない。


「そうだね、賛成だ。毎年ここでは苦戦させられる。去年はベビー・ドラゴンが出てきたし、今年はたぶん、もっとやっかいなヤツが出てくるだろうね」


テーブルをはさんで白金の鎧の主の対面に腰かける濃い緑色のローブをまとった男も相槌をうつ。フードをおろした表情は憂鬱そうだ。銀色ががった長い髪は今は後ろで束ねられている。


「ちょっとマップを作ってみたの。昨年のものをベースにしてみたけど、あまりあてにはしないでちょうだい」

「へえー!ノノ姉さん、もうマップ作ったの?早いなー!だから、ボク、ノノさん、好きさ!」


テーブルにマップを広げるノノの腰に少年が抱きつく。なっ、一瞬、ノノは背中に差した杖に手をやり、詠唱を唱えようとしたが相手がまだ12歳の盗賊の少年であることを思い出し、踏みとどまる。反射的にノノの白と黒のメッシュの髪に生まれていた小さな炎はその姿を消した。


「ハナビ、手を放しなさい。今からみんなに説明するんだから」

「はーい」

冷静さを取りもどしたノノの抑えた声に無邪気な声で返事をすると、自分の位置にハナビは戻っていった。


「ノノ、続けてくれるか」

今のやりとりの間に終わったのであろう、磨き終わった白金の鎧をつけおわった男がノノの傍らに立つ。大きな男だ。身長は190センタを優に超えるだろう。長い金髪は相変わらず束ねることなく下ろしたままだ。


 瑠璃色の瞳はテーブルに広げられた地図を見下ろしている。ノノも決して身長は低い方ではないが、さすがにこの男に並ばれると大人と子供だ。


「シキガミをいくつか放ってみたの。やらないよりはマシかと思って……。案の定、あっという間に燃やされちゃったけど、この子だけは戻ってきてくれたわ」

そう言ってノノは自分の右肩でくったりしている人型をした紙の人形を左手で優しく撫でる。


「この子が持って帰ってくれた映像を落とし込んだから精度はそこそこはあると思うけど」

「ありがとう。助かる。このマップをもとに作戦を練ろう。リョクショウ、このマップから何か感じることはあるか?」

濃緑のローブの男のほうに向かって尋ねる。


「ノノのシキガミは優秀だ。この情報は参考になる。少し時間をくれ」

リョクショウは切れ長の瞳でマップから視線をはずさず、呟く。視線が隅から隅までマップをサーチしていく。


「ハナビ、サンマロを起こしてきてくれ」


ルーファスに命令されたハナビはきょとん、とする。

「サンマロは召喚陣形、昨日まで徹夜で作ってたから今日いっぱい寝かせておこうって……。」

「悪いがヤツの休日は終わりだ。俺が怒られるからお前は安心して起こしてこい」

「でも……。」

「ノノの恩恵に授かったんだ。ご加護はある。さあ、行って来い」

「サンマロが投げつけてくる枕、痛いんだよな」

ブツブツいいながらハナビはサンマロの寝室にとぼとぼ向かっていった。


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「……今日一日、寝ててもいいってことだったと思うが」

ようやく寝室から起きてきたサンマロは不機嫌をそのまま絵にしたような顔で開口一番、そう言った。


「悪かった。ハナビが起こす時間を間違えたらしい。わたしの監督不行届だ。謝る」

「!!!!」

しれっと言うルーファスにハナビが飛びかかろうとするのをリョクショウが押さえつける。


「落ちつきましょう、ハナビ、傷口が広がりますよ?」

「誰のせいでッ!」

「ノノさん、お願いします」

じたばたするハナビを笑顔で羽交い絞めしながらリョクショウはノノの名前を呼ぶ。


名前を呼ばれたノノはにハナビの前にくると、

「ごめんなさいね。これで、帳消しにしてあげる」

そう言って右手の人差し指を暴れるハナビの唇にあてる。

それを見たリョクショウの唇がかすかに動いたかと思うと、ハナビの首はコクンと傾き、寝息を立て始めた。


--------------------------------------------------------------

「……結局、ルーファス、お前の差し金だろ?僕は寝起きが悪いんだ。ハナビにあとでうまいもの食わせてやれよ」

ようやく状況を理解したらしいサンマロが部屋の隅でふくれっ面をしているハナビを見ながら言う。


「そうだな、ハナビ、この一戦に勝ったらうまいもん、食いに行こう」

「……。」

「?どうしたハナビ、不満か?」

「明日は勝つに決まってるだろ。そんな約束ならナシだ」

そのハナビの一言にルーファスは一瞬目を丸くすると、次の瞬間不敵な笑顔を浮かべる。


「そうだったな。俺たちが勝つ一戦だった。それじゃあ、作戦会議をはじめよう」

ルーファスは宣言した。


ここで夜を明かすのも何回目だろう。


ルーファスはマップを細くて長い人差し指でなぞりながら思う。右手のそれは自軍の拠点から相手の陣営までをなぞっていく。


ルーファスたちのいる陣営は今は虫の鳴き声ひとつしない。

いわゆる嵐の前の静けさ、という様相である。

しかし今晩寝て、明日の朝になれば、

ここは戦場になる。


「まずは明日の色だが俺は金、リョクショウは緑、サンマロは赤、ノノは黒、ハナビは青だ。倒した相手にマーキングは忘れるな。もっともこの中に褒賞などいらないなどという聖人君主はいないだろうが、たまに救助弾に色を入れ忘れるヤツがいるからな。気をつけてくれ。無色は助けないぞ、わかったなハナビ」

「いいから進めなよ」

笑い声の仲、ハナビはぶすっと干した鳥の肉を齧る。


「ここから200ミタあたりまではゴーレムラッシュと同じ対応でいいと思う。俺が北、リョクショウが東、サンマロが南でハナビが北だ。それぞれで虫のようにわき出すゴーレムを倒そう。相手の魔法使いが何人いるかわからないがこのあたりはビギナーの仕事だと思いたい。復活はしないほうに懸けよう」


虫、という単語にビク、と反応するノノの姿をちらりと楽しみながらルーファスはマップに茶色の石を置いていく。


「武器は極力、自然の石で倒そう。前半は力を温存だ。ノノはドジを踏んだヤツが倒しそこなったゴーレムを頼む。みんな、倒しそこなったらノノ様の秘密の手帖に倒しそこなったゴーレムの数を記録したページが追加されることを覚えておこう」


みんな黙って話を聞いている。しばらく沈黙が続く。話の中心人物であるノノは興味なさそうに自分の右の手のひらの上で踊る紙切れを眺めている。


ルーファスは再び視線をテーブルの上のマップに戻す。


「本番と言ったほうがいいのは次の第二ステージだ。200ミタ大型がこのあたりから出てくる」

ルーファスはマップの真ん中に水色の石をいくつか置く。


「出てくるのはヘラクレス級以上だろう。サンマロ」

ルーファスはサンマロを見る。


「なんだ」

サンマロは視線だけルーファスに向けて答える。機嫌はあまり直ってはいないようだった。


「召喚陣形はいくつ使える?」

「10……と少し。何が出るのがわからないのはいつものことだ、勘弁してくれ」

「使った石は扱いが難しいウロボロスだったな。それだけあれば上出来だ。大型が召喚できる可能性は高い」

「そうだといいが」

サンマロは首をすくめる。


「ジョーカーを引いたらその時はその時だ。リョクショウ。マップの読み取りはできたかな」

ルーファスはリョクショウを見る。しばらく目をつぶったままだったローブをまとった男はゆっくりと瞳を開く。瞳の色が緑色から銀色に変わっている。


「君の読みは大方においていい感じだと思う。ただ相手が相手だからね。マップは何回か様相を変えると思う。マップから大きな息遣いが聞こえるね。手ごわい魔道士がいる。もちろん僧侶も、ね。相手の戦力は去年ひどい目にあった時以上だと思ったほうがいいと思う。正直、攻撃の形を決めてかかるのはリスクが大きいね。せっかくの大舞台だけど、前半のゴーレムラッシュとその後のパーティ編成から先は僕たちらしく無策でいく方がいいと思う」


そう言ってリョクショウはルーファスを見て全員を見る。

「今回の戦いはそう言った戦いだね。泥臭く戦って去年の借りにチップをつけて相手に返してやろうじゃないか」


「みんな、どうやら明日の戦いはワルツじゃなくなったようだ。ガンガンなヤツらしいぞ。せいぜいみんなその一張羅がずたずたにされないよう気をつけようじゃないか」

部屋に笑い声が起きる。


「そうなってくると、もうこれ以上、あれこれやる必要もないか」

問いかけるでもなくルーファスは言う。


「わたし、もう寝るわね。マップはお好きにどうぞ」

ノノは返事を待つこともなく自分の部屋に帰っていく。


「……。ノノも帰っちまったし、お開きにするか。明日は早いからみんな寝とけよ?」

「今のセリフ、そのままルーファスに返すよ」

「ハナビくん……ちょっとおいで!」


やれやれ。これでちゃんと眠れるのか。まるっきりいつものパターンじゃないか。

サンマロはワインで少し火照った身体の感触を楽しみながらぼんやりとそう思った。


一年に一度の世界をあげて自軍の力を示す盛大な戦い、戦女神の祭りが明日、開幕する。


【第一幕 終】

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