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大賢者シリーズ

大賢者相談所 ‐スライム編‐

作者: 栖坂月

 この天を突く高い塔には賢者が住んでいる。賢者とはいっても別にお高くとまっているワケではなく、少し離れた本屋にエロ本を買いに出向くくらいにはフランクな人柄だ。なので、くだらない相談を持ち込んでくる輩がいたりもする。

 まぁ、駄目な賢者には駄目な客がお似合いだ。

 その日はズルズルベチャベチャと、不定形の身体を引きずるようにして専用エレベータにスライムさんが乗り込んだ。後で掃除のオバサンが激おこである。


「で?」

 スライムのお茶請けはグミにすべきだろうか、それとも普通の煎餅とかでいいのだろうかなどと五分くらい悩んだ末に、買ったはいいけどあんまり美味しくなくて放置していたゼリービーンズを出した賢者は、お茶を一口すすって不定形の緑な物体を凝視した。実に一般的なスライムさんである。ドロドロしていて触ったらいかにも危険な感じだ。

「実は最近、ストーカーに悩まされてまして」

 一方のスライムは、自在に形を変えられる特徴を活かして手と顔を見事に作っている。なかなか芸達者なスライムさんだ。

「ほうほう、ストーカーとは悪質な」

 珍しくまともな相談である。

「その方は鎧を着込んだ人間の方なんですが、どうにもスライムに対して偏見があるようでして、ことあるごとに文句を言っては切りつけてくるという強引なプレイをご所望なのです」

「変態ですな」

 もはや変態どころか大変である。

「切りつけてくるのはまぁ、私はスライムですからいいんですけど、文句というのがどうにも理不尽なものでして」

「理不尽とはどのように?」

「もっとプルプルした感じにしろとか、目と口がないとか、四つくっついたのに消えないとか、もう意味がわからなくて」

 最後のは明らかに別物であろう。

「どうやらその方はスライムを誤解しておられるようだ」

「誤解ですか」

「そうだとも。そもそもスライムといえば緑色のべちょべちょしたくっつくようでくっつかないのが魅力の物体だろうに。頭のとんがった青い物体なんぞ新参もいいところだ」

「いや、その認識もいかがなものかと」

 おっさんと言われるのがオチである。

「で、その新参者しかしらない『にわか』な戦士殿を退治したいと、そういうことかな?」

「いえ、別に退治だなんて」

「そんな戦士、さっさと貼り付いて鎧だけ溶かしたらいいんじゃないかね。あ、女戦士希望で」

 賢者の趣味が窺い知れる発言である。

「いやいや、そんな器用なことできませんって。普通に酸で火傷しますよ?」

「え、マジで? 服だけ溶けるんじゃないの?」

「何ですか、その便利機能……」

「うーむ、これは由々しき問題だな。スライムの現実というものを社会に認知させる必要アリだと思うね」

 現実に裏切られた賢者は少しばかり傷心したようである。

「そうやって周りに知ってもらえれば、あの戦士さんみたいな人もいなくなると、そういうワケですか」

「ちなみにだけど、知り合いに服だけ器用に溶かす特技を持ってるお仲間さんとかはいないのかね?」

 さすがは賢者、夢はそう簡単に諦めないっ。

「いません」

 笑顔で夢は叩き落された。現実は非情である。

「まぁいいけどさ、そっか……」

「それで、認知といっても一体どうしたら?」

「説明文を書いた看板でも持って立ってたらいいんじゃないかな」

 やる気ゲージがミニマムである。

「賢者様お願いですから真面目に考えてください。そういうのが得意な仲間がいないか、戻ったら一応聞いてみますから」

「うむ、くれぐれも頼む」

 ロマンを愛する男、それが賢者だ。

「それで、具体的にはどうすれば?」

「まぁとりあえず正確な情報を整理して考えるべきだろうな。正しいことを正しく伝える、これが信用を積み重ねる基本だ」

「ほうほう」

「そのためにはまず、君たちが自分のことを正確に知っている必要がある。相手のステータスや弱点に精通している者でも、存外に自分のステータスや欠点には気付いていないものさ。それらを並べて、改めて特徴を大きくまとめることから始めるべきだろう。あとはそれを何かの手段で正確に伝えれば良い」

 腐っても賢者といったところか。言っていることは至極まともである。コレで趣味が普通だったなら……それだと単なる一般人に終わっていたことだろう。趣味の特異性こそ賢者の真骨頂である。

「えーと、私たちスライムの特徴といいますと、不定形で酸性ってことくらいですかね。あ、アルカリ性の仲間もいますよ」

「いや、pH値はあんまり興味ないと思う」

「色はまぁ、個性ですからね。緑色が多いですけど、青い子とか赤い子もいます」

「今の君は腕を生やして湯飲み持ってるけど、そういうのって疲れないの?」

「疲れるという感覚がよくわかりません。私たちって柔らかいイメージですけど、こうやって形を変えてる時は結構固まっているんですよ。そうじゃないと物を持ったりできませんし」

「えっと、少し触っても大丈夫?」

「大丈夫ですよ。中に突っ込んだりしなければ滅多に溶けたりなんてしません。大体、周囲のものを見境なく溶かしたら生活しにくいじゃないですか。包丁だって錆び錆びです」

「まぁそう言われるとそうだけど。というか包丁使ってるんだ」

「最近出た、あのセラミックでしたっけ? あれ錆びないらしいから買い換えたいんですよねー」

 人に歴史あり、スライムに生活習慣ありといったところか。

「うーん……ちょっと思ったんだけどさ、そんなに形を変えることが簡単にできるんだったら、試してみたらいいんじゃないかな」

 それは単なる思い付きであった。


 そんなこんなで、今年もこの『毒の沼前広場』で盛大にスライム祭が開催される運びになりました。いつもは物理攻撃の効かない不定形モンスターに悩まされる物理アタッカーの皆さん、塾に友人関係に精神的に疲れているお子様達、夫の浮気などで鬱憤の溜まっている奥様方、今日は遠慮なく気持ちよくスライムを切っていただきます。

 あぁご安心を。その目の付いた青いう○こみたいな物体には有志のスライムさんたちが入っております。この日のために切られる猛特訓を積んできていますので、事故などの心配はございません。

 思う存分、日頃のアレコレをぶつけてください!


 スライムインスライム、おにぎりインおにぎりみたいでちょっとおいしそう。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱ涙滴型のスライムはドラクエが元祖なんですかね。 でもファミコン版の初代ドラクエに登場するスライムは同じ涙滴型でもなんか可愛くなかった記憶が(というか目が逝っちゃってる感じ……) ちなみ…
[一言] 拝読しました。 ところどころぶふっと噴き出してしまうところがありました。 そうですね、スライムって元々緑色で不定形でしたね……。 青くてとんがってるあいつが最初に浮かぶので、忘れがちでした…
[一言] 拝読しました。 スライム族の奥深さを堪能しました。さすが、賢者様、お見逸れしました。次は何かな?
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