娘さんを僕にください
「未来のことをなんだと思っているの!私の娘はあなたのような人のおもちゃではないのよ!!」
「お母さん落ち着いて!この人は大地さん、あの人とは違うの!!」
このやり取りをもう何度繰り返しただろう。
未来の母親は7年前に認知症だと診断を受けた。父親は未来が幼い頃に癌で亡くなっていた。それまで未来のことを女手一つで育ててきた母親は、未来への愛情が人一倍に強かった。
以前、未来が結婚詐欺にあった時には未来以上に泣き崩れた程だ。
そして、その母親にここまで怒鳴られている僕は、その結婚詐欺をした男と間違われているようだった。
話を始めてから何時間経っただろう。
未来の母親は先程までの話を話を忘れたように同じ言葉を繰り返すだけだった。
ここで、ようやく僕の口が開き、動き出した。
「そんなに怒らないで下さい。何度も言いますが、それは事実ではありません。」
未来の母親の表情が少しやわらかくなった気がした。やっとチャンスが訪れた。ここからが僕の力の見せ所だ。
最初は僕に振り向きもしなかった未来の心を、結婚まで傾かせたこの話術を駆使すれば、未来の母親のことだ、騙すことなんて容易いに決まっている。
僕の目の奥には、この親子の全財産が映っていた。自然に笑みがこぼれ落ちた。