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意識のすれ違い

割と長めの投稿です。

ストーリーの分岐点になりそうな展開だったので書くのにすこし苦労しました。

サイトはあの日以来学校を休まなくなった。


というのも校門の玄関先にある絵を観るためだった。毎日登校時間と下校時間の5分ずつ絵を見て


その絵が発信する情報をキャッチしようと集中力を研ぎ澄ませていった。


そのことをクラスの美術部員大和健は知っているようで3日にいっぺんペースでサイトを美術部に誘うようになっていた。


一番驚いたのは体育の授業でボールを渡す際に


「美術部においでよ!」


といいながら渡してきたのであまりにもしつこいと思い、頭をはたいてやった。


そんなうちに大和以外のクラスのみんなとも少しずつだけど打ち解けていったような気がする。


なんだか身長も伸びたような気もする。はぁ、のびねぇかなぁ身長。


サイトはしだいに自分の学園生活が明るくなるにつれて絵の作者が気になるようになってきた。


その人の性格より、どんな気持ちでこの絵を描いたのかを知りたかった。


大和の話だと伊達という先輩らしいが、美術部にいくのは気が引けた。なんだか大和の口車に乗っているような、


少しだまされているような、そんな気がした。だがその欲求は日に日に強くなっていった。


5月の終わりの放課後、サイトは遂に想いを実行に移すことにした。


というのも、大和が机の上にノートを忘れていったのだ。このノートを届けに美術部にいき、絵の作者がいたら挨拶して帰る。


そうやってちょっとずつ美術部に馴染んでいってから本題を聞き出すのだ。カンペキな計画だ。


ちょっとノートというのが重要性が低い気がするが個人情報が載った大事なものだろう。


そう言い聞かせてサイトはこの学校の最上階の5階にある美術室へ向かった。美術部は学校の授業で何度か来たことがあったが


なんなのか分からない不気味な臭いがして近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。このドアの向こうにあの絵を描いた本人がいる。


高鳴る鼓動を抑えながらサイトは美術部のドアを開けた。


サイトが失礼します、と言おうとすると突然、理解不明な状況に出くわした。


それはまさにベレー帽を被ったちいさなおっさんのような生き物がパンツ一枚でズボンを履こうと


している瞬間だった。お互いしばらく目があった後、それが、うわ、見られたというような


感じをだしたのですいませんでした!といってサイトはドアを閉めた。なんなんだあれは。


生徒なのか教師なのか、はたまた不法侵入の変態か。考えを巡らせながら階段を駆け下りていた。


気がつくといつもの絵の前にいた。サイトはいつものように「風たちぬ通学路」と名づけられた


絵を見つめた。ところどころ描き方のタッチが違う部分がある。これはどうやって描いたのだろう。


しばらくすると、あ、先輩こいつです!というような声が聞こえた。


気持ちの悪い声の主はやはり大和である。しかしとなりには初めて見る顔の男子生徒が立っていた。


彼は身長180ぐらいの長身で、サイトよりすこし年上のように見えた。


半袖のワイシャツを着ており、細身の体を腕に浮き出た血管が引き立てていた。


サイトが無意識に頭をぺこりとさげると彼は言った。


「君が斉藤サイト君?僕は伊達詠進(だてえいしん)。この絵を描いた張本人さ。」


サイトは意外な出会いにびっくりして声が出なかった。自分が想像してた人物像とほとんど同じだったのだ。


そしてなにより本人の作品の前で話が出来るのが驚きだった。


張本人、というのはおおげさかな。と言って伊達詠進は続けた。


「後輩の彼から聞いて僕の絵に興味がある人がいるっていうからさ。どんな人かあってみたかったんだ。


君も絵が好きなのかい?」


サイトは色んな考えが頭をよぎったが聞いてみることにした。


「ひとつだけ聞いてもいいですか?」


「なんだい?」


「どういう気持ちでこの絵を描いたんですか?」


短いやり取りだったがサイトはこれが自分の大きな分岐点になるのではないかと感じていた。



「どんな気持ちで、か」


詠進は少し考え込んだあとこう言った。


「この絵は全道大会で賞を取るために自分の力を振り絞って描いたんだ。入賞すると大学の推薦も


貰えるしね。入賞してる作品は風景画が多いから審査員の評価を意識してこういう力強いタッチにした。


ところどころに絵の具が重なってる所があるだろう?そこはナイフを使って上塗りしたんだ。」


サイトはタッチの謎が解けた事より、詠進が絵を描いた動機に対して驚いた。


大学の内定をもらうため?この絵はその為の踏み台なのか?サイトにふつふつと怒りが芽生えてきた。


「そんな...そんな事ってないと思います。」


サイトがうつむきながら言うと詠進は言った。


「いま言った通りだよ。日本の経済のシステムじゃ絵で食っていけない。


大学にいっていい企業に就職するために絵を描くのがどうしていけないんだい?」


「でも...この絵は凄い。人を惹きつける魔力があるじゃないですか。


それなのに愛情を注がないのはちょっとどうかしてる。」


大和が険悪な空気を察知して、おい、サイトやめろとちいさな声でいった。サイトは続けた。


「おれ、この絵を描いた人間は、描きたい絵を描いたらこうなった。そうしたらおおきな賞を貰えた。


そんな人が描いたと思ったんですよ。伊達さんがそういう気持ちで描いていたっていうのは...少し残念です。」


そういうとサイトは玄関で靴を履き変え学校から出て行ってしまった。


その様子を見送ったあと少しにやりとしながら詠進は言った。


「人を惹きつける魔力...か。悪くないほめ言葉だよね」


大和が、えっという表情を見せると表情を引き締めてこう言った。


「サイト君...伸びるよ。彼は。」


詠進は自分の描いた作品を大切そうに額の上がらなでた後、大和と一緒に部室へ戻るため階段を登った。

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