回想
今回で最終回です。
夕方5時過ぎ、太陽が海の中に沈み始める頃、しおさい高校の門からサイトは今日の発表会での出来事を振り返りながら歩いた。
自分が描いた絵にノマ部長や詠進先輩が投票してくれたこと。絵を描きあげた時は自分の絵を見た人がどう思ってくれるのか不安だった。
でも色んな人の助けがあってなんとか期間内に絵を完成させることができて、美術部のみんなと並べても遜色のないレベルまで上達する
ことができた。サイトは海の見える歩道の手すりを掴むと夕日に向かって思い切り叫んだ。もう学校をサボって毎日イラつきながら
無駄に日々を過ごしたあの頃のサイトはいない。玄関先での詠進先輩の絵との出会いがなければこんな気持ちのいい気分になることは
なかっただろう。自分の絵に投票してくれた人がどんな気持ちで投票してくれたのかはいまはわからないが、サイトは「絵」という
自分の努力を形に残し、それを評価してもらい「結果」を残した。自分の作品を真剣に観察し、様々な視点から評価してくれる人がいる。
美術ってなんて素晴らしいんだ。あの絵を描いて本当に良かった。
サイトは太陽に叫んだあとひとしきり満足した気持ちを押さえ両手の拳を握り締め「よし、よし」と呟いた。
努力が報われた気がする。自分で自分を褒めてやりたい気分だ。帰りのコンビニで高級プリンでも買って帰ろうかな。
そんな事を考えてるとちょうどいいタイミングで帰りのバスがやってきた。今日はツイてる。そのバスに乗り込むと窓際の席に座り、
これからの自分の高校生活について考え始めた。これからどんなことが起こるんだろう。漠然とした想像を繰り広げていると窓の外の
太陽は海の底に完全に沈みサイトが住んでいる町にバスは体を運んでくれた。サイトは運転手に定期券を見せてステップから飛びおりると
澄んだ空気を大きく吸い込んだ。あたりはしだいに暗くなり始め、対向車線を走る車が深海を泳ぐ魚みたいだ。
サイトは目を瞑り今日という一日をかみ締めるように唇を噛んだ。そうすればずっと夢のような今日を忘れられずにすむ。
そうすればずっとこの時を止めていられるような、そんな気持ちがサイトの体中をあふれだしていた。
とりあえず「第1部、完!」とさせていただきます。
2ヶ月間色々なことがありましたがなんとか最後まで完走することができました。
もしかしたらすぐにでも「第2部」を書きはじめようと思っているので
なんでもいいので感想ください。
伊藤美優の次回作にご期待ください(笑)