審査その弐
大路地先生は一年生部員達が描いた絵に「ん~よくこの短い時間で描きあげたわね。」とねぎらいの言葉をかけた。
どうやら今回の発表会の首謀者はこの大路地先生だったようだ。毎年このイベントは不定期に開かれるそうだが一年生部員が5人揃った
のを確認するとすぐに開催することを決定した。意外と行動力のある人なのかもしれない。サイトはそんなことをぼんやりと大路地先生
の顔を見ながら思うと、先生は「こういうやり方でいいのかしら?」と投票方法を確認しながら一番左端のビーカーにピンポン球を
押し入れた。松野の口から思わず「おしっ!」という声がもれた。まあ、これが妥当だろうな。ノマ部長が俺に投票したのは
「入部したばっかなのに2週間で絵を描いたサイト君、ステキー。ノマ1票いれちゃうー」とかそんな感じの同情票だったのだ。
サイトの心が少し冷めてくると、次に英語教師の大島先生が絵を鑑賞し始めた。この大島先生は美術部代表という顔も持っており
大会や合宿時などはこの人が先頭になって仕切るらしい。合宿とか楽しそうだな。すっかり集中力のきれたサイトが机の上に
ほお杖をついていると目の前の大島先生が「この絵に決めた!ハッハッー!」と笑いながら真ん中のビーカーにピンポン球を入れた。
サイトと同じようにボケッとしていた神崎が「え!?おれ?!」と声を挙げた。サイトが自分に票が入ったときと似たような
リアクションだった。部室が異様な雰囲気に包まれてきた。次に審査するのは美術部イチの実力者、伊達詠進先輩だった。
部員達はゆるんだ態度を改めなおし、詠進先輩の一挙手一動を目で追った。いつものにこやかな笑みは無く、真剣に絵の評価を下そう
としているようだった。となりから条一郎がツバを飲み込む音が聞こえてきた。詠進先輩は振り返り、いつもの笑みを浮かべると
手に持ったピンポン球を「サイサイ」と書かれた札が付いたガラス瓶に、ぽん、と押し入れた。部室全体におおぅ、とどよめきが起こった。
サイトは何がなんだかわからずしばらくヘラヘラと笑っていた。え?詠進先輩が他の実力者を差し置いて俺に投票??そんなのありえねぇ。
条一郎がやったな、と肩をひじで突付いてきた。松野はアンビリーバブル、といった表情を浮かべていた。
半数の4人の投票が終わり、状況は想像もしていない展開に発展していった。サイト2票、神崎1票、松野1票。
あと1票サイトに票が入るとサイトの優勝もあるぞ、誰かが言ってサイトはふと、我に返った。残りの4人の投票者が
「これは責任重大だな」という感じで黒板の前の5枚の作品を見つめていた。