美術部員出揃う
落ち着かない一年生部員達が審査員全員分のお茶を用意していると、教室のドアが開き顧問の大路地先生と英語教師の大島先生が
教室に入ってきた。大路地先生はみなさんこんにちわ、と言い、大島先生は一年生部員達にみんな、昨日は眠れた?アッハッハ!と
いつもの調子で話しかけた。松野が真剣なまなざしを大路地先生に向けた。投票権利は一人一票だが絵を教える立場である
大路地先生の一票は他の生徒の一票とは重みが違うのだろう。そんな風にサイトは感じた。松野が大路地先生にお茶を手渡すと
ガラガラとドアが開き「みんなおまたせー」と三上先輩が息を切らしながら言った。その後ろに途中で会ったと思われる詠進先輩、
さらに後ろに条一郎に油絵の描き方を教えていた?大清水という先輩が頭を揺らしながら立っていた。サイトは詠進先輩がこっちを見た
のがわかると一気に緊張が押し寄せてきた。一体どれくらい先輩の理想の絵に近づけただろう。もし詠進先輩がかわいい女の先輩
だったら恋に落ちていたかもしれない。そんな空想が頭をよぎったがまだ審査は始まってもいない。雑念を吹き飛ばすように頭を
ぶんぶんと振っていると大路地先生が「これで全員揃ったわね」と言った。いよいよ2週間に渡って絵を描き続けた部員達に
美術の先輩達のジャッジが下されるのだ。ノマ部長が再度全員に投票のルールを確認すると投票者は投票する順番を決め始めた。
サイトはその間もドキドキが止まらなかった。他の一年生もみんな同じ気持ちだろう。順番が決まるとノマ部長が一年生達に
「ほら、顔が引きつってるよ!リラックスして!」といいサイト達に深呼吸をさせた。詳しい審査方法だが審査をする人は一度後ろの
ドアから教室を出て、前のドアに入りなおし、右手から絵を鑑賞していくらしかった。これは実際の美術館での絵の出会い方に
似せる為だというようなことをノマ部長の先輩達が言っていたらしい。緊張で良くわからなかったが大体詠進先輩が以前話してくれた
事と同じようなことだとサイトは思った。そして一通り絵を観た後、持っているピンポン球を名前の書かれた容器に投入して後ろの席に
着き、次の投票者どうぞ、という流れになるということをノマ部長は説明してくれた。充実したチュートリアルが終わり投票者の準備
が整うといよいよ発表会の投票が始まった。先頭バッターはノマ部長に決まった。部長は
「わたしが一度やってみせるから同じように投票するように。」
と三年生に言うと後ろのドアから教室を出た。一年生部員は期待と緊張が入り混じる心境でノマ部長のぺたん、ぺたんという
靴音を聞いていた。