のけ者たちのロックンロール
悪夢のような自己紹介の後、斉藤サイトはなかなかクラスに馴染んで行く事ができなかった。
それは高校生活の最初の友達作りの時期に入院していて参加できなかったのが原因だった。
他の生徒よりたった1週間出遅れただけなのだがサイトの目にはクラスがある程度のグループにまとまっているように見えた。
オタクのグループ。部活動中心のグループ。ヤンキーなどのチャラチャラしたグループ。
そしてそのどのグループにも入れない自分。日に日に孤立を深めていくような気がしてサイトは
学校に行くのが嫌になっていた。盲腸の手術の後で体が思うように動かず体育の授業では転んでばかり、
下の毛が無いせいで変なあだ名をつけられた事。サイトは完全に自信を失っていた。
5月に入り大型連休が始まった。桜の咲き始めが遅い北海道では桜の花が命短しとばかりに咲き誇っていた。
連休も真ん中をすぎた頃サイトは入学祝いにもらった軍資金をもって町でも有数のショッピングモールにきていた。
前の日、中学の同級生の武田君からメールが届いた。
「ひさしぶり。サイト君の高校はどう?俺はというと軽音楽部に入りました。バンドを組んでみんなを呼んでライブできるように
頑張ります。ロック最高!」
と言った内容のメールだったので、こっちもまあまあだよというようなメールを自分に嘘をつきながら返信しておいた。
武田君はクラスでもどっちかというと地味なほうでよく不良に絡まれてカツアゲされるような気弱な児童だった。
彼の髪は天然パーマで、近くにいくといつもワキガ臭かった。そんな彼がロックに目覚めるとは意外だ。
よし、俺もロックを聞いてみよう!ちょうど親戚からもらった入学祝いがある。この現状を打破するためにもCDを買ってみよう。
そんな気持ちでCDショップの入り口をくぐると、ちいさなスペースにたくさんのCDが置いてある。
流行のアイドルの歌がスピーカーで大音量で流れる。おっと、今日はAKBを買いに来たんじゃないんだ。
サイトは「ロック」のコーナーを探して足早にアイドルコーナーから離れた。
ロックのコーナーに行くとよくわからない英単語が綴られたCDがたくさん並べられていた。
サイトは普段テレビで流れるようなJPOPしか聞かないので何を聞いていいのか分からなかった。
えっと、店員オススメのCDはどれだ、と探していると裸のあかちゃんが泳いでいる表紙のCDが半額の1500円だった。
手に取ってみると曲が十数曲入っているようで宣伝の張り紙には「ロックの歴史を変えた一枚!」と書いてある。
よし、このCD買おう。でも他にPSPも欲しいし、あんまり無駄遣いはできないしな~と悩んでいると、
背中から「ぽーにぃてーるー」と不気味な声がした。え?、何?勇気を持って振り返ると
そこにはキノコ頭のクラスメイト、大和健がいた。サイトはうわっと身をひるがえした為、棚にぶつかり、CDが数枚床に落ちた。
なんでお前がここにいるんだよと呟いたが大和は気にせずCDを拾いながら、言った。
「ニルヴァーナ、好きなんだ?」
サイトは一瞬何を言っているのか分からなかったが自分の手に持っているCDの綴りにそんな単語があったような事を
思い出し、ああ、そうだよ。と答えた。
キノコ頭はフッと気持ち悪く笑いながら言った。
「ニルヴァーナ好きならそのドラマーがやってるフーファイターズってのもオススメ。そっちの方が初心者には聞きやすいかもね」
サイトはへぇ、こいつロック詳しいんだー、と思うと同時に自分がロック初心者というのがこいつに見透かされたような気がして
腹がたった。サイトはニルヴァーナのCDを棚に戻しながら言った。
「別にちょっといいCDあったら買おうかなって、思って来ただけだよ。じゃあな。」
こいつとはつきあいきれない。さっさとこの場を離れよう、としたらヤツは言った。
「斉藤君、俺...美術部に入ってるんだ...よかったら斉藤君もどうかなって」
大和の急な誘いでサイトは軽くパニックに陥ったが、はぁ?はいらねぇよ。意味わかんねぇ。と言い放ちその場を去った。
なんなんだ、アイツ。気持ち悪い。サイトは大和の意外な面を短時間で見せ付けられたような気がしていた。