左端を奪え
じゃんけんで勝った松野と大和、負けた神崎、条一郎、サイトの3人はそれぞれ2回目のじゃんけんをした。
松野が大和にグーで勝ち、サイトが神崎と条一郎にパーで勝利した。最後に神崎と条一郎がじゃんけんをすると神崎がパーで勝利した。
黒板の前には絵を載せるイーゼルが5台用意されており、勝ち上がった者から好きな所に絵を置けるというルールを昨日の帰りに決めていた。
松野が意気揚々と自分の絵を一番左に置いた。サイトは絵の順番というのが今回審査に大きく関わってくるという話を詠進先輩から
聞いていた。
「そういえば僕も一年生の時発表会やらされたなー。ここの教室って右側が廊下側だろ?だから入り口から入った審査員が
右手側から絵を審査していくんだ。一番最後、左端に絵を置くとオオトリ、ということで順番に絵を見てきた人がうまい、と
錯覚をおこしやすい。そういう点では絵の順番は大事かな。」
その理論が科学的に証明されているかどうかはわからないが、確かにオオトリは有利だとサイトは感じた。サイトは自分がもし、
じゃんけんで勝ちあがったら左端に自分の絵を置こうと決めていた。が、その予定は部室に来てから2分で崩れてしまった。
松野が一番左端に絵を置き、勝ち誇った表情を浮かべていると、2番目に勝ち上がった大和が松野の隣に自分の絵を置いた。
サイトと神崎がおおう、と声を挙げた。こいつ、やる気だ。もしかしたらこの2人の絵が8票の大部分を占めてしまうかもしれない。
サイトが弱気になっているとほら、次サイトの番、と条一郎に急かされた。サイトはうーん、と10秒ほど考えると右から2番目の
イーゼルに自分の絵を置いた。4番目に勝った神崎が真ん中に絵を置き、最後に残った条一郎が複雑な表情を浮かべながら右端に絵を置いた。
全員が絵を置き終わると「次はタイトルを書いた札をイーゼルの上に載せよう」と神崎が言い、
昨日大和からもらった(本当はノマ部長が用意してくれたらしい)プラスチックの札をイーゼルの手前に引っ掛けた。
これで絵を観てもらう準備が整った。ふー、と一段落した様子で一番前の列の席に5人が座った。
「これであとは審査してもらうだけだね。」
「いやー、一時はどうなるかと思ったけど間に合ってよかったわー。」
松野と神崎が束の間の休息をとり始めると大和がサイトの絵のネームプレートを見てフフっ、笑った。
「サイトの絵...なるほど、そういうタイトルにしたんだ...」
サイトは大和の言葉の意味を理解すると、ああそうだよ、と小さく笑った。絵のタイトルは「動物画」。
動かない静物画の反対という意味と動物の猫を描いたという意味のダブルミーニングだ。結局絵の奥行き感を出すことは出来なかったが
縦書きに描かれた置き鏡と2匹の猫が描かれたその絵は、となりのシンプルな花の絵や魚の絵と比べると
全体的にユーモアに富んでおりユニークな存在感を醸し出していた。これは絵の順番でオオトリはキープできなかったがこれだったら
自分の絵が引き立つのでは、と思いサイトが決断した「結果」だった。
今回は心理戦を書いてみたいと思い、このような書き方になりました^^
自分の描いた絵にタイトルを付けるときって少し恥ずかしいですよね^^;