発表会のルール
今回からいよいよ発表会が始まります。
ホームルームが終わり、掃除当番のはずのサイトは昼休みに菓子パン2つで買収した木田君に今日の掃除を頼むよ、と言うと大和と一緒に
急いで階段を駆け上がった。パン代の220円は小遣い前のサイトには痛い出費だったが、今日は一年生による絵の発表会があるため
先輩達が集まってしまう前に準備をすべて終わらせてしまいたかった。部室のドアを開けると他の一年生部員3人も息を整えながら
黒板の中央に集まっていた。みんな同じ気持ちだったのだろう。全員揃ったのを確認すると神崎がみんなを代表して言った。
「よし、絵を並べる順番を今から決めるぞ。じゃんけんでいいな?」
全員が無言で頷くと5人で輪をつくり、じゃーんけん、と声を合わせて腕を振り下ろした。
話は昨日の放課後にさかのぼる。
部室には無言で絵を描き続けている一年生部員達がいた。一足先に作品を完成させた大和がぼんやりとみんなの絵を見てまわっていた。
大和の画風は水彩画で、描きたいものがあらかじめ決まっていたとはいえ、期限の前日に作品を仕上げた者とそうでない者とでは
精神的な余裕がかなり違った。松野は最後の仕上げ、という所でかなりナーバスになっていたし、神崎は魚の絵を描きあげていたが、
時間的に妥協したと言われても仕方が無いような完成度であった。しかし、水彩画特有のみずみずしさが熱帯魚の印象と非常にマッチ
していたし、シンプルで見やすい絵になったという見方をすることもできた。条一郎がうわ、またやっちまった、と声を挙げた。
おそらくまだ乾いていない部分に色を重ねてしまったのだろう。下の色と上に重ねた油絵の具が混じり、花瓶に添えられた花の中央に
よどんだシミのような模様が出来ていた。初めての油絵、という点を考慮すればまずまず合格点、といった絵だが、今回は相手が
悪い。同じ油絵を描いている松野の火山の絵の完成度が高いため、比較の対象になるだろう。描くのに時間がかかる油絵で2週目の
土日、月曜日と3日間絵を描くことができなかったのが最終的にアダとなった。最後にサイトの絵はというと...
大和が神様目線で他の部員達の絵を眺めていると部室のドアががらっと開き、
「こにゃにゃ~、みんな完成した~?」
と飛行機のように腕を広げたノマ部長が部室に入ってきた。ノマ部長は大和以外みんな絵に集中して部長の存在に気付かないでいると、
口を膨らませて怒り始めた。その後みんなに聞こえるように大きな声で言った。
「明日の発表会のルールを発表するよ!審査員&投票者は全員で8人!発表者はみんなが集まるまでに発表する準備を終えること!
できれば今日までに絵を描きあげて、ついでに絵のタイトルを決めること!いまからネームプレートを配るからそれにタイトルを書いて
当日絵の前に飾ること!も~、やまちん、みんなになんとか言ってあげてよ!」
そう言われると大和はみんなの方を振り返った。みんな自分の絵に集中しすぎてノマ部長の話どころではないようだ。
大和が「俺が配ります」と言い、部長から縦5cm、横15cmくらいの紙切れが入ったプラスチックを一年生部員達の机の上に
そっと、置いていった。ノマ部長は無視されているのが悔しいらしく、地団駄を踏んでいたが「後で俺の方からもう一度みんなに
伝えておきます」と大和が言うと部員達全員の顔を見渡した後「みんな、頑張ってね。」と言って部室を去った。
じゃんけんをしていた5人が振り下ろした手をそれぞれ確認すると、チョキが2人、パーが3人。
最初のじゃんけんに勝ったのは松野と大和だった。松野は勝ちを確信したかのようにニヤリとした不気味な笑みを浮かべた。