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2トップ躍動

ちょっとかぶってる表現があったので修正しました。

週明けの月曜日、サイトは掃除を終えるとクラスメイトに別れの挨拶をし、部室のある5階を目指した。


教室に入るといつもの一年生部員が全員揃っていた。いや、条一郎がいない。松野に尋ねると風邪をひいて休んだそうだ。


そんな調子で間に合うのだろうか。教室の隅に置いてあるラフな下書きがまだ残っているキャンバスを見てサイトは思った。


松野がどこか不思議そうにサイトに尋ねた。


「あれ?今日は朝、描きにこなかったよね?ひょっとしてサイトもやる気がなくなっちゃった?」


極度のプレッシャーによるリタイア者が出ないか心配して言ってるのだろう。サイトは松野の問いに笑いながら答えた。


「そんな訳あるめぇよ。ムカつくおっさんKOしてからすこぶる絶好調よ。なんかうまく言えないけど吹っ切れたって言うか、


部活で出来る事に集中しよう、って思ってね。で、今日はいいかな、という感じで朝来ませんでした。ゴメンね。」


サイトが急にまくし立てるように話したので松野はサイトの言ってる事がよくわからなかったが、とりあえずやる気は感じたので、


「そっか。お互い頑張ろうね。」といって自分の絵の元へ戻った。


サイトは別につよがりでもなんでもなく、あのキャッチボール事件以来、足かせが外れたように気分が軽くなったような気がしていた。


いままで「親に迷惑をかけない良い子」を演じていたのを諦めたからだろうか。筆の運びにも迷いが消えたような気がして


2冊目の水彩ノートには体のバランスの取れた色彩豊かな三毛猫の絵が5枚ほど描かれていた。サイトはカバンからファイルに入った


画用紙を取り出した。本番用の絵はこっちの画用紙に描こうとサイトは決めていた。それはノートのきれっぱしを発表会に提出するのは


失礼だと思ったし、A4サイズの画用紙の方がB5のノートより見栄えが良いという2点からである。


サイトは準備室から水彩セットを持ってくると前の方で絵を描こうとしている神崎に声を掛けた。


「ともちゃん、どの魚を描くか決めた?」


「う~ん、部長とも話し合ったんだけどコイツにしようかなと思って。」


そういうと「熱帯魚カタログ」と書かれた本に載っていたタイのような、マンボウのような魚を指差していった。


「これはディスカスっていう魚で熱帯魚の王様って言われてる魚なんだけどコイツが楽そうでいいかな~と思ってさ。


ほら、もう今日含めて4日ないじゃん?」


さすがに発表日の金曜日は描くことが出来ないので実質4日しか期限がないのはサイトもわかっていた。でも神崎が


時間がないから適当に絵を描くはずがない。ははぁ、俺を欺くハッタリだな。そんなことを考えていると小声で神崎が言った。


「さすがにあの絵と張り合うのは今回は無理だよ。ちょっと、気合が入りすぎだもん。」


神崎があごで松野の方を見るように促すとサイトは松野の絵を見て言葉を失った。おいおい、金曜日の帰りにはあそこまで完成していなかった。少なくとも火山の


下地くらいは塗り終わっていたが、今目の前にある絵は背景も含めほとんど色が塗り終わっている。どうやら週末休みもきて


一日中絵を描いていたらしい。そしてその上からさらに色を塗り重ねようとしているのだ。サイトも土日は絵を描いていたが


ここまで情熱を注いで描かれている絵は始めてみたかもしれない。松野の絵は火山の風景画で悠然たる山のいでたちや、


妖しげな背景が今にも噴火しそうな活火山の危険な香りを絵の表面から漂わせていた。主に赤茶色系の絵の具が多く使われているが


山の影や風景の一部には暗い黒が使われていて絵のバランスを整えていた。詠進先輩に指摘されたエキセントリックな


配色は色を潜め、深み、というよりは勢いが松野の絵からは感じられた。サイトは唇をかみ締めている神崎を横目に、急いで絵を


描く準備を始めた。負けてたまるか。詠進先輩の描き方を実践すればなんとか戦えるはず。容器に水を汲んでいると


今まで存在を消していた大和が大きく背伸びをした。しまった。アイツも要注意人物だった。体育のドッジボールでまったく


狙われないソイツは自分の絵が描かれた画用紙を見ながらフッと笑みを浮かべた。サイトは水の入った容器を片手に大和に声を掛けた。


「なんか気持ち悪く笑ってるけど描けたのかよ?」


サイトが強がって聞くと大和は首を縦に振った。画用紙をサイトに向けるとそこには地底人が今にも飛び出してきそうな勢いで


指を差し向けている絵が描かれていた。水を持っているため仰け反ることができなかったが、実際かなり気持ちの悪い絵だった。


絵が飛び出して見えるような特別な描き方をしているようだった。なんか遠近法がどうとかブツブツ言っていた気がする。


サイトが気になっていた事を聞いた。


「あれ?背景が描かれてないじゃん。これで終わり?」


「背景はちょっと、違う描き方をするから...とりあえず地底人はこれで完成...サイトも頑張って」


頑張ってと言われておう、と頷いたが同級生になんだか一歩リードを許しているみたいで少し悔しくなってきた。いかんいかん。


ヤツのペースにはまるな。自分の絵を描くことに集中しろ。サイトは不安を吹き飛ばすようにすらすらと画用紙に筆を進めた。

大和が取り入れている遠近法の描き方は2部の「Sea side Art clubber」で触れていきたいと思っています(ネタバレ?)。

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