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助っ人現る

結構長めの投稿です。


翌日の放課後、美術部を目指してサイトと大和の2人は階段を雑談しながら登っていた。教室のドアを開けると他の1年生部員が


すでに来ていて絵を描く準備を始めていた。担任の寺田先生のホームルームが長引いたせいで1年3組の2人は10分遅れて美術部に参加


することになった。絵が出来上がらなかったら責任とってくれよ。寺田先生。サイトが軽口を言うと後ろの方で大和がフフッと笑った。


神崎が「サイト、調子よさそうじゃね?」と尋ねてきた。サイトはふふん、と笑みを浮かべた。


「絵を描くテーマが決まったんだ。俺は今度の発表会で猫の水彩画を描くよ。」


神崎は、ねこぉ?と笑いながら言った。作業服を着て木箱を開けた松野もちらっと振り返る。これで一年生5人組みの絵のテーマは


出揃ったようだ。サイトは猫の絵。神崎は熱帯魚の絵。松野は洋書に載っていた写真を参考に火山の絵を描くそうだ。


大和はなにやらグロテスクな地底人の絵。あ、条一郎は造花の静物画を描くようだ。彼は昨日家から持ってきた花瓶に


100円ショップで買ったようなユリの造花を差してデッサンをしていた。なぜ造花なのか。サイトが尋ねると生花は描いている途中


に枯れてしまうからだというような事を言った。彼も松野と同じく油絵を描くそうだ。期間までに間に合うのだろうか。


そうだ人の心配をしている場合じゃない。サイトは大和と急いで準備室のドアを開け自分達のロッカーから絵を描くための道具を


取り出した。サイトが汚れたロッカーを荒々しくしめると、床に一枚の写真が落ちていた。サイトはそれを拾うとぶはっ、と


噴出した後、おいおいおい、と言って口に手をあてた。サイトは大きく深呼吸をすると気持ちの悪い表紙の本を持っている気持ちの悪い


大和におい、と声を掛けた。そして「この写真、どう思う?」と言って手に持っていた写真を大和に見せた。


その写真には舞先輩のセミヌードが写し出されていた。カメラの前でアイドルの様に


体育座りをし、ギリギリの角度で胸や下半身のアレを隠している


舞先輩は特に恥ずかしげもなく毅然とした表情を浮かべていた。なんなんだ、これ。さすがの大和も唖然とした顔をしていたが


「これ...もってっちゃおうか」と恥ずかしそうに言った。


いやいや、それはまずだろ。サイトは名残惜しそうにその写真を見てニヤッとした後、


「つるの舞」と書かれた札が付いているロッカーのスキマからその写真をいれておいた。



サイトと大和が気をとり直して絵を描くための準備をしていると部室から「こにゃにゃち~みんな描いてるぅ?」と


ノマ部長が入ってきた。そういえば部長は今週初めて部室に来た。後からにこやかな笑みを浮かべた詠進先輩、携帯をいじりながら


三上先輩、松野を見ると不機嫌そうな顔を浮かべた舞先輩がぞろぞろと入ってきた。ノマ部長がみんなを代表して言った。


「みんなが来週の発表会ので何を描くのか知りたいと思って来てみたんだよ~もう色塗り始めちゃってる人いる?」


そういって教室を見渡すと松野が油絵のキャンバスに下地を塗っていたのでノマ部長がぶはっ、と噴出した。


「よしぷー、後1週間で間に合うの?」と笑いながら聞くと、松野は「間に合うように頑張ります」と緩んだ二重あごをきっとひきしめる


ように言った。先輩達はどうやら1年生達が初めての発表会で舞い上がってないか、様子を見に来てくれたようだ。詠進先輩が


サイトと目を会わせると言った。


「サイト君、美術部の空気には慣れた?入部したてのキミにとってかなり不利な状況だけどみんな頑張ってほしいと期待しているんだよ。


何かアドバイスが必要だったら言ってくれ。」


サイトはいや、その、と何を言っていいかわからなかった。絵のテーマは決まったがどの写真を参考に絵を描こうか決まっていなかった


からだ。サイトは詠進先輩に昨日プリントアウトした写真を見せてどの絵を描いたらいいか聞いてみることにした。


サイトが持ってきた写真を先輩に見せようとするとノマ部長が「じゃあ、私はザッキーにつくね。」と言って神崎の席へ行った。


今日は上級生部員が後輩ひとりひとりにサポートにつくようだった。サイトには詠進先輩。神崎にはノマ部長。大和には三上先輩がつき、


松野と舞先輩がぎゃーぎゃーと言い争いをしながら絵についての構想を練っていた。ひとりあぶれた条一郎が俺は?


と言った顔をしていたのでノマ部長がフォローするように言った。


「タカジョーには特別に2人先輩がつくよ!今面接の練習をやってるからもうちょっとしたらやってきてくれるはずだからね!」


条一郎がほっと息を吐き出して安心したような表情を浮かべた。


サイトが猫の写真を詠進に見せると、先輩は関心したように言った。


「サイト君、写真を撮るのうまいね。猫の体全体と表情がピントがずれずに撮れてる。写真部でも十分通用するんじゃない?」


冗談とは言え、褒められてサイトは嬉しかった。サイトはこの写真がいいかな~と思うんですけど、と控えめに


詠進に一枚の写真を見せた。


それは猫がサイトの部屋の置き鏡をみてもう一匹の猫の姿に驚いている写真だった。


目を大きく見開き耳をピンと立てている写真を見ると詠進先輩がにこやかに口を開いた。


「これは面白いんじゃないかな。必然的に猫を二匹描く事になるけど一匹の被写体を違った角度から描ける訳だから


描き方次第じゃ優勝できるかもしれないね。」


美術部イチの実力者から「優勝」のフレーズがでたので他の部員達がぞろぞろと集まってきた。おいおい、まだ何も描いてないって。


俺を過大評価するのはやめてくれ。サイトが気まずい思いをしているとノマ部長が「わー、かわいい~」と他の写真を持ち上げて


言った。舞先輩が「猫被りやがって」と言った顔をすると机に置かれた写真を覗きこんで言った。


「そっか。デジカメで撮ったんだ。私がこないだ自分のヌード描くのに現像してください、て写真屋に持っていったら性器が写っている


写真は現像できません、ってつっぱねられたのよね。今度からデジカメで撮影するわ。」


突拍子のない話を聞かされてサイトと大和の2人は鼻から牛乳が出そうな勢いで噴出した。そうか、準備室で見た写真はその時


現像してもらった写真だったのか。セミヌード写真の疑問が解けると三上先輩が「こら、1年生に変なことふきこまない。」


と割って入ったのでみんなそれぞれの絵の前に戻った。松野が散り際に「優勝、か。」と言った。周りが落ち着くと詠進が言った。


「この写真の通りに構図を取って水彩画で忠実に色を塗ることができれば、の話だけどね。サイト君、水彩画は得意なの?」


「そんなに得意じゃないです。油絵を描くには時間が厳しいかな、と思ったので水彩画で描いてみようかなと思いまして。」


ほんとは油絵セットを買う余裕がなかったのだがそれを言うのは野暮な気がした。サイトが続けた。


「先輩、よかったら俺に水彩画の描き方をすこしだけでいいんで教えてもらえませんか?」


おそるおそるサイトが言うといいよ、と明るい返事がした。


「じゃあ、ためしに一枚描いてみるから筆とパレットを貸してもらえる?あと絵の具と水もね。すぐ出来るように描くから


ちょっと見ててくれ。」


そういうとサイトから筆とパレットを受け取りサイトのノートに色の付いた筆を走らせた。サイトは詠進先輩がどのようにして水彩画


を描くのか興味津々に見つめていた。

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