Fureai
サイトは家に帰った後、ぼんやりと発表会に提出する絵のテーマについて考えていた。夕食の時間までにはまだ少し時間があったので
イスを傾けながらPSPのゲームをして時間を潰していた。
今日、朝の時間を使って、ローマの町並みを描いた。放課後には簡単そうなりんごの絵を水彩画で描いてみた。が、思ってた以上に
たくさんの色がりんごの表面に点在していることに色を塗りながら気づいたため完成したときには色々な色がごちゃまぜになった
鞠のような物体がノートの上に描かれていた。簡単そうに見えてややこしくできているんだなぁ。そんなことを思いながら指先で
ゲームのキャラクターを動かしていった。しばらくすると窓の外からにゃー、という鳴き声が聞こえた。アイツまたやってきたのか。
サイトはやっていたPSPを中断し、窓のカーテンを開いた。外はすっかり暗くなり始め、ベランダの中央では声の主が前足で
顔をなでていた。サイトは昨日の教訓を生かし、窓を開け、後ろからゆっくりと毛並みの整った三毛猫を抱きかかえようとした。
すると、猫はサイトの手をすり抜け、窓をくぐりサイトの部屋に入って来てしまった。おいおい。俺の部屋にはお前が欲しがってるものは
ないぞ。猫も入ったのはいいものの、どこか落ち着きがなさそうに窓とドアの間をいったりきたりしていた。
サイトはこの猫に愛着がわいてきたので是非写真に収めたいと思った。昨日かあちゃんが父母会かなんかで使っていたデジカメがある
はずだ。サイトは窓とドアを閉めどかどかと1階の居間に続く階段を下り始めた。
味噌汁を温めている母にデジカメの場所を尋ね、言われた引き出しを開けるとやや大きめのデジカメが裸で置いてあったので
ちょっと借りるよ、と言い、階段を登った。途中でデジカメの使い方を確認してドアを開けると部屋の真ん中にいた猫がドアの近くに
走り出したので、おおっと、いう感じで猫の進路方向を足で塞いだ。お前は今から俺の写真のモデルになるんだ。リラックスして
ポーズをとってくれ、と思いながらサイトはデジカメを構え三毛猫がなにかアクションを起こすのを待ち構えていた。
すると猫は部屋の隅にある置き鏡を見たあと、ふー、と急に毛を逆立てて威嚇を始めた。
もう一匹猫が目の前に現れたのだと思ったのだろう。はは、そいつはおまえだよ。サイトはおかしくなってカメラのシャッターをきった。
しばらく猫の撮影会をしていたら下の階からご飯ができたわよー、と母の恵美の声がしたのでサイトはここで切り止めることにした。
猫もすっかり緊張が解けたようでサイトの足に体をこすり付けたりしている。そうだ、お前にギャラを支払わなきゃな。
サイトは再び階段をどかどかと駆け下りると、しばらくしてまた階段を昇ってきた。その手に握られた魚の切り身を猫の目の前に置くと
ぱくっと、満足げに平らげたのでサイトはすこし嬉しくなった。窓を開け、今日はありがとな。また来いよ。というと猫はのしのしと
ベランダまで歩き、にゃー、と1回鳴いた後しゃっと飛び降り暗闇の中へ消えていった。サイトはデジカメに保存した画像を確認
し始めた。サイトはこの猫をモデルに絵を描いてみようと思って自分の部屋にやってきた三毛猫を撮影したのだった。
俺もすっかり美術部に染まってきたな、と階段を三度下りながらそんなことを考えていた。