グロテスク・ロマネスク
タイトルには特に意味はありません^^;
放課後の美術部の部室に掃除で遅れた条一郎が入ってくると1週間後の金曜日の発表会のために絵を描く予定の一年生部員全員が揃った。
サイトは今日の朝描いたローマの町並みの絵を見返していた。道を歩いている人物と建物の大きさの比率がおかしかったが
それでも昨日描いたラクダの水彩画よりはうまく描けてると思った。そうやって地道にレベルアップをしていくしかないのだ。
準備室に入る条一郎とすれ違うように部屋から出てきた大和健の手には水彩セットと一冊の小さな本が握られていた。
大和はサイトの隣の席に座ると松野と同じく、「もう何を描くか、決めた?」と聞いてきた。
同じライバル同士、相手が何を描くか気になるのだろう。サイトは松野や大和と比べて自分の絵が劣っているのがわかっていたので
「まだ決まってねぇよ」と不機嫌そうに答えた。すると大和はサイトが描いた絵を覗き込んだ。サイトがぱん、とノートを閉じると大和が言った。
「俺...こいつを絵の中に入れたいと思ってるんだ...どう思う?」
どう思う?と聞かれたのでサイトは大和が広げている手のひらサイズの本を見た。その本はマンガの単行本だった。
大和がここの絵、と言いその絵が描かれたページをサイトに見せた。サイトはうわっ、と席を飛び上がりお前、いいかげんにしろよ、
と呆れながら言った。大和が持ってきた本はスプラッター漫画のようでページには飛び散った人間の臓器の絵が描写されていた。
大和がサイトが飛び上がる様子を見てフフッと笑みを浮かべるとその漫画の解説をするように言った。
「この漫画は地底に潜った人間達が地底人に食い殺されるって話なんだけどその地底人を描いてみようかなって...」
サイトはおそるおそる大和がこちらに向けている漫画を覗き込むと一番最後のコマに地底人らしき生き物が光を指差して
カタカナで何かを言っている絵が描かれていた。これのことを言っていたのか。サイトが気持ち悪そうにその本を閉じるよう大和に指示
すると、思っていた疑問を口にした。
「お前、そんなグロい絵を描いてみんなに受け入れられると思ってんの?あれだけいい絵が描けんだから普通に描いたらいいじゃん。」
サイトは大和が描いたりんごの絵やラクダの水彩画を思い出しながら言った。しばらくして大和がフフッ、笑った。
サイトは思った。どうやらコイツ確信犯のようだ。わざとそういう変化のある絵を描いてみんなの注目を取ろうとしてるな。
普段クラスでまったく面白い発言をしないこの生徒にそんな目立ちたがりな一面があるというのを始めて知ったが
美術というマモノが彼の心を操っているのだろう。サイトは少年マンガよろしく、そんな妄想を浮かべながら今日はどんな水彩画を
描こうか参考書のページをペラペラとめくった。