サイト、朝練をはじめる
最近仕事が忙しくてなかなか更新できなくてすみません。
ちゃんと最後まで掲載するんでよろしくです^^
次の日サイトはいつもより30分早く、登り坂の通学路を通りしおさい高校の校門をくぐっていた。
梅雨のない6月の北海道は例年よりすこし肌寒いようで通学路には夏服と冬服の生徒がまばらに存在し玄関先で靴を履き替えていた。
サイトも靴を履き替えると3階の自分のクラスを通り越し、5階の美術室を目指した。
朝の登校の時間を使って絵を一枚でも描いておこう、と思ったのだ。「朝練」なんて中学の卓球部以来だ。
そんな事を思い出しながら部室のドアを開けると教室の端の机の上に絵の具のついた木箱がのっかていた。サイトはその木箱の
持ち主が誰だかすぐわかった。アイツやっぱり来てたのか。サイトが準備室の方に目をやるとドアが開きいつもの
「油絵専用」作業着に着替えた松野良風が出てきた。彼はサイトを少し驚いたような顔で見つめた後、おはようと言った。
サイトもおはよう、と松野に返した。木箱が置かれている机の方に向かう彼の手には英語でタイトルが書かれた本が持たれていた。
松野がイスを引き机の上に座ると「もう何を描くか決めた?」とサイトに尋ねてきた。「いやまだ。」と言うと松野が言った。
「僕はこの本に描かれてる風景を描こうと思ってるんだ。油絵だからもうそろそろ描き始めないと間に合わないと思ってね。」
油絵?この短い期間で油絵を描こうっていうのか?サイトはテレビで見た趣味の番組で絵の先生が言っていた言葉を思い出した。
「油絵は色を塗ると乾くまで3日ほどかかります。毎日描こうとはせずに気の向いた時に描くようにすると
気分もリフレッシュ出来て良い絵が描けると思います。」
さすがに一週間に一度の絵画教室とは違い、急いで絵を描かなくてはいけない状況なのだがどうやって乾いていない絵の上から色を重ねて
絵を描くのか。油絵は単色ではなくその上からいくつも色を塗り重厚感を高めていく絵であるというのを詠進先輩の絵を見て
サイトはわかっていた。松野はサイトが感じた疑問を表情から読み取ったようで「これを使うんだ」と言い、油の入ったビンを見せた。
「この油をテレピンと混ぜて使うと油絵の乾きが早くなるんだ。出来れば完全に乾いた所から塗っていくほうが心配はないけどね。
先輩や先生に僕の実力を証明するために頑張らなきゃいけないから。」
松野は鼻からふー、と荒い息を吐いて机の上のキャンバスに木炭で絵の下書きを始めた。サイトはこの冴えない高校生から
並々ならぬ気迫を感じていた。一枚の絵に対してこうも夢中になれるものなのか。なにが彼のもっと上のレベルにいきたい、という
欲求を駆り立てるのか。今はまだわからないがそのうちわかる日が来るのだろう。
サイトは自分が出来る精一杯の事をやらなくては、と思い参考書に描かれている町並みをキャンバスノートに模写していった。