未知との遭遇
サイトは寺田から書くように言われた書類を全て記入し、1時間目終了のチャイムが鳴るのを期待と不安が入り混じる気持ちで
待っていた。いや、どちらかといえば期待の方が上回っていた。
サイトは幼稚園から中学までエレベーター式に同じ名前の学校を進学していった。
母の知り合いや昔からの友達が多くいる中学校時代は彼にとってとても充実した学校生活だった。
児童会副会長として学校のイベントを企画したり、所属する卓球部の大会で勝ち進むなど他の児童からも
一目置かれる存在だった。とサイトは自分自身で思う。しかし、高校進学時にちょっと違う環境で自分を試してみたい。という
気持ちで家から少し遠いこのしおさい高校を選んだのだった。なぜ1週間入学が遅れたのかと言うとそれは、
と思いふけっている間に終了のチャイムが鳴った。このドアの向こうにいったいどんな高校生活が
待ち受けているのだろう。サイトは少し緊張しながら職員室の奥の会議室のドアを開け、自分のクラス
1年3組を目指して歩き出した。ときおり窓に反射する自分の姿を見て、軽く微笑んでみたり、髪型を気にしてみたり
しながら渡り廊下を渡ると、教室から生徒がまばらに出て行くのが見えた。休み時間にトイレに行く連中だろう。
やがて何人かの生徒がこの学校ではじめて見る斉藤サイトという人間に興味の目を向けるのが分かってきた。
だれ?転校生?と女の子の声が聞こえ、少し気恥ずかしい気持ちになったがサイトは気持ちを強くもつことにした。
1年3組の開いているドアをくぐりサイトは黒板の横に貼ってあるプリントで自分の席を確認した。
ちょうど真ん中の席だ。サイトは横にカバンが置かれていない自分の席に向かって歩いた。
イスを引き、ふぅーと息を吐きながら席に座るとクラスの自分に対する好奇の目が手に取るようにわかる気がした。
そう、自分はこのクラスに入ってきたまったくの異分子なのだからそう思われても仕方あるまい、とあごを突き出しながら
座っているとひとりの生徒が教室に駆け込んできた。となりの女の子が声を出したのでサイトも彼に注目した。
彼は2時間目だというのにカバンを持っている。ということは遅刻をしてきたのだ。見た目はサイトとおなじくらいか
少し大きいくらい。キノコのような髪型をしていて、どことなくイケてない雰囲気を醸し出していた。
サイトは思った。俺はコイツとは友達にはなりたくない。コイツといると他の友達や彼女ができなさそうな気がする。
サイトがそんなことを思っているとその少年はサイトの方をみてあれ?というような表情を浮かべている。
なるほど、新入生の俺の存在に気をとられたか。いい心がけだ。
しばらく彼は黒板の前でうろうろしていたが、意を決したようにサイトの席へ歩き出してきた。
その勢いが結構な早歩きだったので、サイトは「お、やるか」と気がまえた。入学早々こんなヤツになめられてはたまらない。
彼は席の前で立ち止まり何かを言いたそうな表情をしている。先手必勝だ。サイトは言った。
「何?なんか文句でもあるわけ?」
サイトはヤンキーのように目を見開き顔をキノコヘアーの彼に近づけながら低い声で言った。キマった。
これでびびったに違いない。
言われた彼は少し意外そうな顔をしたがそのあとフッっと笑い小さな声でぶつぶつ言い出した。
サイトはちょっとなめられたような気がして声を荒げた。
「ちょ、オメーなんなんだよ!言いたい事があるならはっきり言えよ!」
突然の大声にクラスが静まりかえった。しばらくの静寂のあと目の前の少年は言った。
「あの・・・そこ・・・おれの席・・・・」
2秒後にどっとクラスに笑いが起こった。え、と言いながらサイトは机から立ち上がり目を細めて座席表のプリントを見た。
右から3列目、前から2番目の席・・・自分が座っている席の名前は「大和健」となっている。
うわー、やってしまった。だれも声を掛けてくれなかったのは自分が新入生だから声を掛けづらかったのか。
サイトはまだ笑い声が残る教室で、カバンをもってひとつ後ろの本当の自分の席に着くことにした。
すれ違い様にキノコカットの彼に小さくごめんね、とつぶやいた。
言われた彼はちいさくフフッと笑ったような気がした。トータル的に見て、気持ち悪いヤツだなぁとサイトは思った。