記念すべく一作目
サイトは家に帰ると自分の部屋でテレビを見ながらキャンバスノートに「ドラえもん」の絵を木炭で描き始めた。
サイトは学校の帰りに近所の文房具店に寄り、詠進先輩が使っているキャンバスノートより一回り小さいサイズのノートを購入した。
大和から借りた黒い棒の正体は木炭であるらしく、握ると手に黒く墨が付着した。普通のノートに描きこむには適していないような
感じがしたので絵を描く専門のノートが必要、とサイトは思いなけなしの小遣いをはたいてノートの購入を決めたのだった。
その後家に帰り夕食を食べ、テレビで放送されていた「ドラえもん」を見てこれなら自分でも描けるのではないか、と思い
サイトは何も描かれていないノートに輪郭となる円を描き始めた。自分の記念すべき第一作目の絵がアニメのキャラクターだった
のは不本意だったが子供の頃から見慣れた人物(この場合はロボットだが)を描くのは勉強になるのではと思った。
テレビで走り回ったり飛び上がったりとコミカルな動きを見せるそのネコ型ロボットはサイトが想像していた顔とは少し違って
いるようだった。子供の頃とアニメの作風が変わっているということではなくて、例えば目と目がくっついていることや、
青と白のカラーリングがキチンとわかれていることなど普段は何気なく見ているキャラクターでも注意して見ると細かい
発見があるんだな、とサイトは絵を描きながら感じ取っていた。詠進先輩を真似ておもむろに練り消しをノートに貼り付けると、
描いていた絵が消しゴムの中に吸い込まれていった。思いのほかきれいにいままで描いていた絵が消えたので焦って必要な箇所
を書き足した。そうこうしている間に右手と右足を前にして歩き出そうとしているドラえもんの絵が完成した。
サイトは絵を見てしばらくした後ぶっ、と吹きだしふあぁ~とベッドに横になった。まるで子供の落書きだ。
サイトは大和が描いたリンゴの絵を思い出した。どうやって2週間であのレベルまでもっていけばいいのか。
ぼんやりと天井を眺めていると、母に風呂に入るよう言われたのでサイトは湯船につかりながらこの無理難題に対して立ち向かう
術を考え始めた。なにかいいアイデアは浮かばないだろうか。ぶくぶくとお湯を吹きながらサイトは物思いにふけっていった。