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邂逅、そして入部へ...

それぞれ絵を描く準備が整い、美術室には神崎がさっき話していたテレピンという油の臭いが少し漂ってきた。


どうやらこの油に筆をつけてから絵の具をすくい、キャンバスに描くのだ、そのような予想をたてながら


サイトは部屋の様子を目で追った。詠進の絵のモデルを勤めているため体は動かすことは出来ない。


教室の真ん中のサイトの視点からは、斜め正面に自分の絵を描いている詠進。左手側にやたらテレピンを使っている松野。


その隣に神崎。どうやら油絵ではなく、水彩絵の具で絵を描こうとしているようだ。なぜかやたらと筆で画用紙に水を


含ませている。何か効果があるのだろうか。


後ろのほうでは三上先輩、ノマ部長、大和の三人が描いているようだ。


ノマ部長のあぁ~うまくいかないなぁ~という声がたまに聞こえる他はみんな静かに、そして真剣にそれぞれの絵に向き合っているようだ。


少し緊張した面持ちのサイトに詠進はこう言った。


「サイト君。リラックスして。表情が硬い。」


そう言われてサイトはふぅーと息を吐き出した。思っていた以上に疲れる。こんなに長く人に見られ続けた経験は無いかもしれない。


サイトは昨日の詠進と今目の前にいる詠進が同じ人物だとは思えなかった。


キャンバスノートと書かれたノートに黒い棒で絵を描き込んでいる詠進は非常に楽しそうである。この人が内申書に書かれる


全国大会入賞、の一行のために絵を描いているとはまったく思えない。サイトは聞こうと思っていたいくつかの質問を飲み込んで


詠進が描き終わるまでの間、何も聞かず絵のモデルという仕事をやりとげることにした。


練り消しゴムのような物体を絵に少し擦りつけたあと、詠進はゆっくりと口を開いた。


「出来た。サイト君お疲れ様。こんな感じになったけどどう?」


サイトが体の向きを直し詠進の絵を受け取るとそこには映画のラフスケッチのように細い線がたくさん描かれた背景の真ん中で


イスに不機嫌そうにすわる高校生の絵が描かれていた。本人より少し男前に描かれているのは詠進なりのサービスなのだろう。


入学当時逆立てていた髪は下ろし、夏服のワイシャツは1つボタンを掛け違えていた。サイトが慌ててボタンをはずし始めると


詠進がニヤっと笑った。詠進が感想は?と聞いてきたのでサイトはボタンをかけながらこう答えた。


「すごく上手だと思います。でも、ただ...」


「ただ?...」


サイトは思った事を口にした。


「なんか、ミスタードーナッツの箱に描かれてるような、そんな感じの絵だなぁと思いました。」


詠進が少しわらいながら答えた。


「よく言われるんだよね。持ち帰り用のドーナッツの箱に書かれてる子供の絵でしょ?人物を描こうとするとそうなっちゃう。」


サイトは馬鹿にして言ったつもりはまったくなかったのだが、詠進もその気持ちはわかっていたようだ。


おもむろに立ち上がって詠進は言った。


「サイト君、キミは絵をすごい観察してる。その絵の状況、描き手の感情がすぐわかってしまうんだ。


そういう能力をもってる人は少ない。ぜひ美術部にはいってその才能を発揮してもらいたい。」


サイトは自分の思ってもみなかった才能を自分が認めた絵の作者から見出されたので驚きと歓喜の感情が同時に押し寄せていた。


サイトは答えた。もう迷う必要はない。


「はい。ぜひこの部活、美術部に参加させてもらいます。」


立ち上がると詠進が握手を求めてきた。その手に応じると後ろでノマ部長が拍手を始めた。他の部員もつられて拍手をした。


サイトはなんだか少し照れくさかったがやっと自分のやりたい事がみつかった気がして、満足感で胸がいっぱいだった。


大和が後ろで「計画どおり」という顔をしていたが気にならなかった。こうして俺は美術部の仲間入りを果たしたのだった。

数年前までミスタード-ナッツの持ち帰りの箱には店がモデルとして募集した子供達の絵が描かれていました。

おそらくサイトはその箱に描かれている子供に詠進の絵が似てると思ったのでしょう。

今回でやっとサイトが美術部に入部しました。

これからどんな学園生活が待っているのか。私も楽しみです。


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