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時姫の言葉~大団円~

 破槌城は順調な航海を続け、やがて破槌の町へと近づいた。

 城が近づくと岸には緒方家の家来が立ち並び、城主の上総ノ介を迎える支度に忙しい。


 城の正面に立って破槌の町を眺めている時太郎は、出迎えの中に河童淵の河童たちが揃っているのに気付き、仰天した。


「時太郎……あれ、皆きてる!」

 お花が叫び、時太郎は頷いた。翔一が指を挙げ、声を上げる。

「それだけでは御座いませんぞ! ほれ、苦楽魔くらまの大天狗さま、それになんと狸御殿と狸穴まみあなの狸たちも……!」


 城が岸に接岸し、時太郎とお花、そして翔一は飛び出した。翔一はすでに葉団扇を手に、空へと飛び上がっている。あの時より翔一は飛べることに気付き、それ以来何かあると空へと飛び上がることが習慣になっている。


 町民に混じり、河童や天狗、それに狸たちが時太郎たちを出迎える。

 長老が杖をついて歩いてくると、時太郎を見て相好を崩した。


「時太郎、それにお花。よう帰ってきたの! いや、目出度い!」


 お花が口を開く。

「長老さま、いったい、これは何の騒ぎです?」

 長老は莞爾と笑顔になった。

「時太郎のおかげじゃよ! 苦楽魔の天狗たちとは長く交流が途絶えていたが、時太郎が訪ねたことによって、再び昔のように行き交うことになって、こうしてお前たちを出迎えることに決まったのじゃ!」


 その側で大天狗が頷く。

「それに、狸たちともな! 我々あまりに長い間、孤立しておった。今回のことで、これではいかん、人間たちとも付き合わねば、という意見が出て、こうして人間の町へと繰り出すことになった。もしかしたら、これで良かったのかもしれんな」


 刑部狸が、それを引き取る。

「わしも、上総ノ介殿と同盟を結ぶことになった。人間を敵視することなく、仲間として付き合うことも必要だと考えたのだ。人間たちは陰でわしのことを〝狸親爺〟と呼んでおるが、まあ、わしは狸じゃから当たり前だがな」


 時太郎は呆気に取られていた。

 河童の列の間から三郎太が現れる。

 三郎太は無言で時太郎を見つめる。


「父さん……」


 三郎太は頷き、口を開く。

「母さんと会えたのか?」

 時太郎は「うん」と俯いた。

「父さん、母さんは……」

 三郎太は空を見上げた。

 双つの月が出ている。


「母さんは、あの月へと向かったのだな。そして……この世界を救ったのだ」

 時太郎は三郎太の言葉に大きく頷いた。


「おれ、何をしたんだろう? 母さんに会うというほかに……」

 三郎太は時太郎の肩を「どん」と強く叩く。

「お前のおかげで皆、変わっていった。お前の旅がなければ、河童も、天狗も、狸たちもあのままだったろう。これでいいんだ。それにお前も変わった。そうじゃないか?」


 時太郎は、再び頷く。三郎太は、にやりと笑った。

「時太郎。お前、外の世界を見たくはないか?」

「外の世界?」

「そうだ。というより、星の世界だな。お前がその気になれば、おれが南蛮人に頼んで、宙を飛ぶ船に乗せてやることもできる。おれは本来、星の世界からやってきた者だ。おれは、この世界に留まることに決めたが、お前はまだ子供だ。その目で星の世界を見ておくことも、悪くはない」

 意外な父の言葉に時太郎は目の前が一気に開ける気分になった。


 星の世界か……。


 時太郎は父と一緒に空を見上げる。

 藍月と紅月が時太郎を見下ろしていた。その月に、時太郎は母親の時姫の横顔を思い浮かべていた。

 時姫が頷いた──ような気がする。


 ──時太郎、行きなさい──


 時姫の言葉を時太郎は聞いていた。

河童戦記、これにて、完結です。

どうでしたか? かなり、長い連載だったけど、楽しんでもらえたでしょうか?

よかったら、読後の感想、評価など、下さると有り難いです。

次回作では、仮想現実をテーマにしたSF作品の予定です。

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