表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/73

最後の言葉

 操舵室に足を踏み込み、甚左衛門は驚きに身を硬直させた。


 こんなところとは、夢にも思っても見なかった。


 あたりに無数の装置が犇き、検非違使たちが一心不乱に、何か作業を続けている。

 部屋の中央の椅子に時姫が腰掛けている。


 甚左衛門は時姫に近づき、声を掛けた。

「外が見えねえな。ここは操舵室ってことだが……」

「操舵には外の景色は見えなくとも構わないのです。総ては受像機に示されますゆえ」

 甚左衛門に振り返ることもなく、時姫は真っ直ぐ前を向いたまま答える。甚左衛門は受像機を見て「ふん」と鼻を鳴らした。


「ちっとも判らねえ! ただ数字だの、記号が、ぞろぞろ流れているだけじゃねえか!」

 時姫は検非違使に命令した。

「展望窓を開け!」


 甚左衛門は「おーっ!」と少し仰け反った。時姫の命令に、操舵室の前方が静々と開き始めたのである。


 そこに藍月が浮かんでいる。が、地上から見上げる姿とは違い、まるで手で触れそうに近い。表面の窪み、亀裂などが近々と見えている。


「成る程……確かにおれはそらに来ているようだ……。藍月があんなに近い……」


 甚左衛門の口調は、うっとりとなっていた。

 その時、操舵室全体が「ずしん」と揺れた。甚左衛門は慌てて手近の手すりを掴む。

 検非違使の動きが慌しくなった。


「重力制御装置の限界です! このままでは船内に特異点が発生します! 重力崩壊まで、あと三分!」


 時姫が素早く質問する。

「藍月の状況は?」

「依然、軌道変化続行!」

「作業を継続せよ! 状態が安定するまで続ける」


 甚左衛門の額に、ふつふつと汗が噴き出す。

「時姫……おれたちは死ぬのかね?」

 時姫は前を向いたまま無言で頷いた。甚左衛門は肩を落とした。


「そうか……。最後に、一言ひとこと……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ