現地人
「現地人ではありませんか!」
松田大尉は憤然となった。頬が薄紅色にほんのり染まっている。
「そうさ。おれは、あんたらが言う〝現地人〟ってやつさ。しかし大抵の事情は、そこの吉村って旦那から聞いているがね。あんたら、星の世界からはるばる空を飛ぶ船に乗ってやってきたってことだな?」
木戸甚左衛門は帯に指を掛け、反り返るような姿勢になって松田大尉に話しかけた。甚左衛門の雄弁に、大尉は呆気に取られた表情になる。
「そんなことまで……」
大尉はきっとなって吉村中佐を睨みつけた。
「中佐殿、これは規律違反です! わたしたちの正体を現地人に明かすことは、禁じられているはず」
中佐は肩を竦めた。
「それは知っている。が、特別規定があるのは知らないわけではないだろう。特別規定によれば、現地採用の局員を先任の将校は招集できることになっている。わたしは木戸甚左衛門を、現地採用したのだ」
大尉は黙ってしまった。しかし疑いの目は甚左衛門に向けられたままである。甚左衛門は、そんな松田大尉の様子を面白がっているようだった。
「まあ、そうつんけんするなって、おれの話を聞けば、あんただって、そう尖がってばかりもいられなくなるぜ」
「どういうことかしら?」
「おれの主人の緒方上総ノ介のところに、ちょくちょく妙な南蛮人が訪ねてくるんだが、どうやらその南蛮人、緒方上総ノ介に色々と妙な入れ知恵とか、武器を与えているようだ。どうだい、こういう情報は興味あるんじゃないのか?」
「南蛮人ですって?」
大尉の目が見開かれた。それを見て、甚左衛門の目じりに笑い皺が刻まれた。大尉は中佐を見た。中佐は頷いた。
「そうなのだ。甚左衛門の話を聞いて、わたしはその南蛮人がもしかしたら、干渉の原因ではないかと思っているのだ」
「でも、どうして? その人物の目的はなんです?」
「それが判らん!」
中佐は机の表面を、ばしりと叩いた。