真相
時姫は「ほっ」と口を丸くする。
「当たり前です! なぜ、そのようなことを聞くのです?」
「苦楽魔で聞いたんだ。父さんは河童で、母さんは人間。種族の違う二人から、子供が生まれるはずがない、と。もしかして、源二という人の子供じゃないかと思って……」
時姫は、にっこりとほほ笑んだ。
「そのようなつまらぬことで悩んでいたとは……。安心なさい。そなたは三郎太殿の息子です!」
「でも、父さんは……」
「いいえ!」
きっぱりと時姫は首を振った。
「父親の三郎太殿は、なりは河童ですが、その実、人間なのです! そなたも〝聞こえ〟の力を使えば判るはず。妾は最初に出会ったときから三郎太殿の正体に気付いておりました。が、三郎太殿は何も仰ろうとせず、妾は黙っておりました。だから、そなたは立派な人間、信太一族の一人なのです!」
総ての疑問が氷解する感覚に、時太郎は立ち尽くす。母親の言葉に一片の嘘もない!
そうだ、おれは人間の時太郎なんだ!
溢れる思いに、時太郎は時姫に、むしゃぶりついた。
「母さん!」
が、時太郎は時姫の身体を突き抜けた。
そこにいるのに、まるで空気を突き抜けたように手応えが無い。
「母さん?」
時姫は哀しげな表情になり、視線を逸らす。
「妾は今、ここには居らぬのです。最上階の、操舵室にいて、立体映像でそなたと会っているのです。そなたに触れたくとも、叶いませぬ。相済まぬことです……」
「そ、それじゃ、おれが母さんのところへ行くよ!」
時太郎の言葉に、時姫は首を横にした。
「いいえ、そなたは、ここにまいってはいけませぬ! それどころか、すぐにこの【御舟】から出るのです!」
「なぜだ! 折角こうして会えたのに!」
時太郎は絶叫した。
「そうだ、まったく判らねえな。感激の母と息子の対面ってのにな……」
嘲笑うかのような声に、時太郎と時姫、それにお花と翔一は入口を振り返る。
そこに一人の武士が立っていた。頬に目立つ傷跡がある。
武士は、にやりと笑った。傷跡が生き物のように歪んだ。