邂逅
【御舟】の内部に足を踏み入れた時太郎は、その時ようやく本来の自分にかえった。
目の前に奇妙な【御舟】の内部が広がって見えている。
ぴかぴか、ちかちかと瞬く無数の灯火。その間を無言で作業している検非違使たち。
「ここが【御舟】……? ここに時太郎のお母さんがいるの?」
お花が呟いた。
「なにやら苦楽魔の、電磁誘導磁界素子の部屋を思い起こされるところで御座いますね」 と、翔一が感想を述べる。
「うん……」
曖昧に時太郎は頷いた。ともかく、母親に会いにここまで辿り着いた。が、これからどう行動していいかが、さっぱり分からない。
「時太郎……あなたが時太郎なのですね」
不意に女の声が聞こえ、時太郎は声の方向に向き直った。すると、そこに一人の女が立っていた。
小柄で、内掛けをまとい、長い髪を背中に流している女官のような装束。卵形の顔に、大きな瞳が、じっと時太郎を見つめていた。
「母さん?」
一歩、おずおずと時太郎は前に進み出る。
女はゆっくりと首を縦にする。その目が微かに潤んでいるようだ。
「妾がお前の母、時子です。会いたかった……元気でいてくれたのですね」
時太郎は黙ったまま、立ち尽くしている。今までの河童淵での暮らしが、どっと思い出されてきた。
そうだ、おれは、母さんに尋ねたいことがあったんだ……。
「母さん、一つ聞いてもいいかい?」
「なんでしょう」
時姫は母親としての優しいほほ笑みを浮かべている。
「おれの父さんは、三郎太かい?」