決意
時姫は瞳を上げ、立ち上がった。
【御門】の〝声〟が絶えている。
それだけではない。
時姫の周りを取り囲む力場そのものの〝声〟も消えていた。
もしかしたら……。
時姫は恐る恐る、手を力場に伸ばした。
円の外側に手の平が出ても、衝撃は全然ない。
やはり【御門】は、この【御舟】を離れているのだ。
時姫は円の外側に足を踏み出した。しかし、回りにいる検非違使たちはまるで注意を払うことなく、黙々と【御舟】の内部の壁面に備えられている装置を見守ったり、操作をするのに余念が無い。
時姫は、ある決意をしていた。
この長い年月、ずーっと【御舟】の中に閉じ込められ、その間たゆまず【御舟】が立てる様々な〝声〟に耳を傾けていた。
最初は、まるで意味が判らなかった。だが、徐々に慣れ、内容を把握していった。
【御舟】の装置は、刻一刻と変化するこの世界のあらゆる出来事を倦まず、報告し続けている。星が進む軌道、位置、様々な変化。
その中には、恐るべき内容の報告があった。
藍月が遠ざかり、紅月に衝突しつつあることを。その結果、紅月は軌道を変え、この世界から消えてしまう、ということ。その後の壊滅的な変化を。
時姫は内部の昇降機の前に立った。
引き戸のような扉が、両開きに開く。内部は、いとも素っ気ない小部屋になっている。時姫はその中に進み、声を上げた。
「操舵室へ!」
時姫の声に応じ、昇降機は即座に上昇を開始した。
上昇を続ける昇降機の中で、時姫は思った。
なんとしても、この世界を救わなければならない! そのために自分が死ぬことになっても。