阿鼻叫喚
都大路は阿鼻叫喚の巷となっている。
黒い雲の塊のような【御門】は、上総ノ介麾下の将だけでなく、たまたま通りかかった町民や、都大路に面した町屋にも容赦なく襲い掛かり、次々に累々と死体を残していった。
轟っ──と、大風が大路を吹き渡っている。
真っ黒な【御門】の姿は、その風に吹き散らかされそうになる。だが、奇妙に形は崩れていない。風によって千切れそうになると、急速に元の姿に戻っていく。
「おのれぇ……!」
悔しさに藤四郎は歯噛みをする。
どのような攻撃も【御門】には無駄であった。
矢を放とうが、刀で切りかかろうが【御門】は平気であった。すべてを呑みこみ、近づく者を不思議な力で打ち倒した。
はっ、と藤四郎は、ある思いつきに「そうじゃ!」と手をぽんと叩いた。急いで懐から移動行動電話を取り出すと、通話をかける。
「……上様っ! 藤四郎めで御座いますっ! はっ、唯今【御門】が攻めてまいり、将たちは、さんざんに殺られておりますっ! そうです、矢も刀も利きませぬっ! お願いで御座います。回回砲をお使いくだされ!」
移動行動電話から上総ノ介の「あい判った! 今より狙いをつけるっ!」の頼もしい声に、藤四郎は愁眉を開いた。