好機
湖上の破槌城天守閣で、甚左衛門は遠眼鏡を目に当て、御所の様子を見守っていた。
「上様、妙な具合です。なにやら戦闘が始まっているような気配で御座います」
「なにっ! 戦闘とな?」
上総ノ介はぐいっと身を乗り出す。甚左衛門の遠眼鏡を毟り取るように奪うと、目に当てる。
「なんじゃ、あの影は? 二輪車の列に突っ込んでいるぞ! あっ!」
遠眼鏡を離す。上総ノ介の表情は焦燥に険しくなっている。
「将が片端から殺られておる! なんということじゃっ! あれは物の怪であるか?」
甚左衛門は、すでに上総ノ介の言葉が終わらないうちに天守閣から飛び降りた。階段を駆け下りるなど、まどろっこしい!
だんっ、と屋根に飛び降りると、そのままひらり、ひらりと四層の屋根を次々と飛び降りる。
ようやく一階に飛び降りると、厩へと走る。
「二輪車を引けえっ!」
叫ぶと、厩に繋がれている二輪車に跨り、梶棒を回すのももどかしく飛び出した。
あんまり勢いよく梶棒を回したため、二輪車は棹立ちになる。それを押さえつけ、甚左衛門は城から京の都へと飛び込んでいく。
好機である──!
遂に【御門】の謎が明らかになるのかもしれない。
甚左衛門は我知らず、笑いを頬に浮かべていた。