限界
ゆっくりと、大天狗は太陽儀を操作する操作盤に近づいた。
指先が操作盤を動く。太陽儀の動きが止まった。
すると、太陽儀全体がくるりと回転する。
ごごごご……と低い音がして、天儀台の丸屋根が開き始めた。真ん中から二つに割れ、空が見えてくる。
回転した太陽儀の裏側には、丸い金属製の皿が現れる。皿は数本の金属製の筒で支えられ、そのまま開いた丸屋根の上へと登っていく。
大天狗は空を見上げた。そこに双つの月が昇っていた。太陽儀の裏側に現れた皿は、真っ直ぐ月を向いている。
大天狗は我に帰った。驚きに叫ぶ。
「月が……!」
双つの月は「合」の位置にあった。青い〝藍月〟と赤く見える〝紅月〟が重なり合う瞬間が近づいている。
が、本来ぴったりと重なり合うはずの双つの月は、どこか面妖であった。
大天狗は呟いた。
「藍月が、小さくなっている……」
同じように我に帰っていた天狗たちは心配そうな声を上げる。
「ど、どういうことで御座いましょう?」
「考えられることは、一つ。藍月が遠ざかっているのだ。しかも紅月に近づいている。このままでは……」
「このままでは? いかがなるので?」
「呂氏の限界に近づくことになる。紅月の潮汐力が、藍月を引き裂く事態になるかもしれん」
大天狗の呟きは呻きに近かった。