光
苦楽魔の岸壁に巨大な天狗の顔が掘り込まれている。内部は空洞で、天儀台という施設があった。
幾つもの金属の輪が組み合わさった太陽儀が部屋の中心でゆっくりと回っている。その太陽儀の動きを、大天狗が見つめていた。
と、大天狗の横顔が、目に穿たれた窓からの光に照らされた。眩しい光に、大天狗はそちらに顔を向ける。
「水虎が……」
大天狗は呟いた。大きな、まん丸の両目が細められる。
どたどたという足音に、大天狗は振り向いた。昇降機から部下の天狗が大慌てで飛び出してくる。
「大天狗さま! か、河童淵の水虎から妖しい光が!」
「判っている!」
天狗たちの周章狼狽ぶりに、大天狗は煩そうに手を振った。窓を指さす。
「ここから良く見える」
「いったい何事が起きたのでしょう?」
大天狗は頷いた。
じっと水虎の方向から来る光を見つめる。
「なにやら信号のようじゃな……」
天狗たちは身を乗り出して窓の外を覗き込み、同意した。
「成る程、ちかちかと瞬いておりますな。それに光の色も変化しております」
その言葉どおり、水虎から放たれる光は瞬き、色を白、赤、青、黄色などの七色に目まぐるしく変化させていた。
大天狗と天狗たちは、じっと光彩の変化を見つめている。その瞳が虚ろになる。




