河童の唄
長老の言葉どおり、水虎の像の双つの目が開いている。それまではただの石に刻まれた目の形の窪みだったのが、今ではかっと見開かれた両目が、いやに生々しく宙を睨んでいた。
水虎さまの像の頭部に人影が見えた。河童の一人が指を挙げ、叫んだ。
「あれは……三郎太では御座いませぬか?」
その言葉に長老は小手を挙げ、目を細めた。
「うむ、確かに三郎太のようじゃ。あんなところで何をしておるのじゃ?」
頭部の上から三郎太は集まってきた河童を見下ろし、叫んだ。
「河童淵の河童たちよ! 今こそ、お前たちの使命を果たす時が来た! さあ、水虎の像の前へ集まるのだ!」
三郎太の叫び声は普段とは違い、轟くようで威厳に満ちている。三郎太の命令に、河童たちはふらふらと誘われるように集まってくる。
長老は三郎太を見上げ、叫び返した。
「三郎太、何を言っているのじゃ? 我らの使命とは、なんじゃ?」
三郎太の目と長老の目が合った。三郎太は大きく両手を開き、叫んだ。
「河童たち、唄え!」
──牟──ん……!
水虎さまの像から低く大きな【水話】が響き渡る。その瞬間、総ての河童は動きを止めた。目が虚ろになり、口が開く。
──牟──ん……!
水虎の発した【水話】と同じ音を出す。長老もまた、皆と同じように口を開け、発していた。
全員の【水話】が重なり合い、滝に反射して一つになる。
と、水虎の両目が光り出した。
河童たちは忘我の状態にある。ただ精一杯の力で水虎の【水話】に合わせ、ひたすら声を張り上げている。
水虎の両目は、さらに輝きを増した。
両目から発した光は、真っ直ぐ苦楽魔を照らしている。