回想~禁止事項~
大佐の声が聞こえてくる。
「この惑星は一世紀前に再発見されたいわゆる〝失われた殖民星〟だ。殖民が行われたのは、それより五百年前のことになる」
少佐は身を乗り出した。
「というと……つまり」
「そうだ! 例の分離独立主義者が起こした銀河大戦の最中に出発した殖民船の一つだ。当時は戦乱の混乱で、帝国政府に無許可で出発した殖民船は数十隻に上ると考えられている。そのほとんどは地球の支援を受けられず消滅したが、この星は奇跡的にも生き残った。しかし、実に奇妙な発展をしたことが判明した。これを見て欲しい」
次の画面に少佐は呆れて首を振った。
粗末な造りの家々が立ち並ぶ中を、一人の人物が歩いている。和服を着て、足下がすぼまった袴を穿き、帯に二本の刀を差していた。その人物は月代を剃り、丁髷を結っている。
少佐は、おずおずと口を開いた。
「これは武士といわれる階級の装束ではないでしょうか? 日本の中世にあたる……」
「その通り、驚くことに、この惑星は日本の中世を忠実に模した社会を現出させている。それに、これを見ろ!」
画面を見つめた少佐は、思わず立ち上がろうとした自分の衝動を抑えるのに必死だった。
驚きに口許がぽかりと開く。
「これは……何です?」
大佐の声に笑いが混じる。少佐の驚きを楽しんでいるようだ。
現れたのは、ひょろりとした姿の頭に皿、背中に甲羅、しかも手足にははっきりと水掻きがある生き物だった。
「河童だよ。童話や民話に登場する想像上の生き物だ。そして、これも……」
次に示されたのは、天狗であった。突き出した鼻、一本歯の下駄を履き、背中には羽根が生えている。
「他にも想像上の生き物が、この星にはわんさか存在している。どうやら殖民計画を立案した連中は、遺伝子改変の禁止事項に頓着しなかったらしいな」
椅子の上で少佐はぴくりとも動かない。黙って大佐の説明の続きに耳を傾ける。
「この星の殖民計画は、最初から捻じ曲げられている! 想像上の生き物を再現することも勿論だが、計画の初期から一人の人間が殖民星を我が物にするつもりでいたようだ。そのため、船の記憶装置に自分の人格を転写させ、殖民が始まると同時に目覚め、密かに星を支配している。現地では【御門】と呼ばせているらしいがね」