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御所へ
夜明けの光の中、無数の二輪車が整列をしている。
二輪車揃えの列だ!
ひゅう──
風が出てきた。
はたはたと風をはらんで二輪車に跨った武者の旗指物が翻る。
さっと眩しい夜明けの光が差し込み、二輪車の金属部分を輝かせる。全員、ぴくりとも動かず、命令を待っている。
「時太郎!」
二輪車の列から声が掛かる。
時太郎がそちらを見ると、木本藤四郎が二輪車の間から伸び上がって、こちらを窺い見ている。
藤四郎は時太郎たちを取り囲む検非違使に気付くと、ぎくりとなった。
「時太郎! おぬし、どこへ向かうつもりだ? そやつらは、御所の検非違使ではないか?」
時太郎の目と合った藤四郎の表情が、大きく変化した。
それまではどちらかというと、時太郎を案じるような表情だったのが、時太郎と目を合わせた瞬間、怖れに似た表情が浮かぶ。
「おぬし、いったい……」
ふつふつと藤四郎の顔一杯に汗が噴き出した。
「御所へ……」
それだけを答えると時太郎は目を逸らし、検非違使とともに立ち去った。
藤四郎は呪縛されたように立ち尽くしていた。