打撃
「この星は、月を失う運命にある……」
中佐は悲痛な声を上げた。
「そうなると、どうなります?」
大尉の質問に中佐はじっと映像に見入って答えた。
「この星は公転面に対し、十七・五度ほど傾いた自転をしている。
この自転軸は安定だが、それは、あの月が星のふらつきを吸収していたからだ。
要するに地球の月と同じ役割を果たしていたのだ。もし存在しなくなると、数十年、いやもっと早い段階で自転軸の逆転、および横転が起こってしまうかもしれない。
温帯が熱帯や、寒帯になり、また、その逆もありうる。つまり気候の激変が考えられる。この星の生態系のほとんどが打撃を受けるだろう」
大尉は首をかしげた。
「なぜ、このように不安定なのです?」
「もともと、あの月は、この惑星の周囲を回っていなかったからだよ。この星に殖民された当初、外惑星の木星型惑星から衛星を運び、この世界の軌道に強引に乗せたのだ。自転軸を安定させるためにな。小さな月……藍月というそうだが……は大きな月、紅月の軌道を安定させるためにあの位置に置かれた。が、最初の計算がうまくいかなかったのか、現在このような状況にある」
「状況の打開策は?」
真剣な大尉の表情に、中佐は頷いた。