尋問
はらりと時姫の長い髪が額から目にかけて垂れ下がる。それを指で掻き上げ、時姫は顔を上げた。
(時太郎! 生きていた!)
喜びが湧き上がる。あの時、三郎太に託してその後は別れ別れになったのだが、こうして元気な姿を見ることができた。目元の痣、間違いない。
──時姫……
深々とした【御門】の声が時姫の頭の中で響き渡る。
びくりと時姫は肩を震わせた。
──【鍵】を渡せ……余には、あれが必要なのだ……
時姫は目を閉じた。心気を凝らし、息を整える。「聞こえ」の力を蘇らせる。
辺りに満ちる【御舟】の〝声〟が時姫の心に触れる。時姫はその〝声〟に身を委ねる。
──無駄だ……いくら【御舟】の〝声〟に耳を澄まそうと、【御舟】は、そちに応えてはくれぬぞ。
それより余に【鍵】を渡すのだ!
執拗に【御門】は時姫に命令している。時姫は無視している。
ここに連れられてからというもの、執拗に【御門】は時姫に【鍵】を渡すように命令する。だが、時姫は一度たりとも返答したことは無い。
──くくく……
【御門】が哂ったようだ。
──お前の息子、時太郎と言うのか……
時姫は顔色を変えなかった──つもりだったが、動揺は隠せない。【御門】の気配が、舌なめずりしそうなものに変化した。
──今、検非違使たちが信太屋敷に向かっておる。捕えるのも、時間の問題だな。お前の息子なら【聞こえ】の力も持っておろう……。【鍵】の在り処も、息子に聞けば判るかもしれぬな……
時姫は両目を開いた。
「時太郎は、何も知りませぬ! 無駄なことです!」
──おや、ここに連れられて初めて口を利いたな。やはり息子は大事と見える……。
言え! 【鍵】は何処にある?
時姫は強く目を閉じた。身を固くして必死に溢れてくる悲痛な思いに耐えている。
【御門】は、それからも執拗な尋問を続けていた。




