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革靴
店へその南蛮人が姿を表したのは、開店して程なくの、まだ朝の早い時間であった。店には朝早くの客に供される早朝定食を目当てに来店者が卓について、半分ほどの入りである。
からん、と店の扉に取り付けられた土鈴が鳴って来客を報せる。その音に、白い南蛮前掛けを身につけた給仕の娘が元気良く「いらっしゃいまし!」の声を上げた。
が、姿を表した客に、娘は思わず立ち止まり頬を赤くした。
南蛮人である。しかも女だ。
意外な来客を見て、店のざわめきがぴたりと止まった。客たちは好奇の視線を南蛮人の女に送っている。
伽羅の南蛮服に膨らんだ垂下穿き、黒い革靴の女は、眉間に皺を寄せ、険しい表情で立っている。
背が高く、五尺五寸はありそうだ。細面で、流れるような金髪が背中にかぶさり、抜けるような白い肌に、青い目をしていた。
女は給仕の娘に短く声を掛けた。
「二階へ向かいます。よろしいですね?」
切り口上のような口調に、給仕の娘は慌てて頷いた。南蛮人の女は返事を待たず、さっさと階段を登っていく。
かつ、かつと女の革靴の底が鋭い連打音を立てて登っていく。