秘密
ぴょん、と狐は縁側に飛び上がり、荒れ放題になっている屋敷の中へと入っていく。時太郎たちは狐の後を追って、屋敷に上がりこんだ。
狐は屋敷の渡り廊下をぴょん、ぴょんと飛び跳ねるように進んでいく。
やがて狐は、屋敷の中庭に三人を案内した。
中庭には小さな祠がしつらえてある。おそらく、この屋敷の屋敷神であろう。狐は祠の扉を開くと、中に頭を突っ込み、なにか忙しく前足を動かした。
その作業が終わり、狐は三人に顔を向けた。
「驚かないでくださいよ」
「何を──」と言いかけた時太郎は思わず「わあっ!」と叫んでいた。
お花と翔一も叫んでいる。
いきなり地面が沈み込んだ。ぼこっ、と三人の立っている辺りが丸く切り取られるように沈み込み、ぐんぐん地面の下へと下がっていく。
時太郎が見上げると、円形に切り取られた空が急速に遠ざかった。
やがて下降は止まり、三人の目の前に横穴が現れた。横穴の壁はすべすべとして、なにか非人間的な感じをさせている。
「こちらへ──」
狐はぴょんぴょんと先へ立つ。
しかし三人が立ち止まったままなのを見て、苛々と尻尾を振った。
「早く! 誰かに見られたらどうするのです!」
時太郎がようやく歩き出すと、お花と翔一も続く。三人が円形の筒の底から離れると、その底が再び上へと登っていった。背後には壁が持ち上がり、もう後戻りはできない。
「元の通りに塞がるのか?」
狐は時太郎の言葉に頷いた。
「当たり前でしょう。あのままにしたら、穴が残ってしまいます。ここは秘密の場所なのです」
横穴は所々、白い光源で照らされている。
天井から放たれている光は、時太郎の見たことのないものだった。蝋燭や松明の光なら時々揺らめくこともあるが、この光は瞬きもしない。
管狐はもう何も言わず、黙々と先を走っている。後を追いながら、時太郎の胸は我知らず高鳴っていた。