案内
「わたくしの言葉は【聞こえ】の力を持つお方だけにしか聞こえないので御座います。あなただけが、わたくしの言葉を聞き取ることができる。ということは、信太一族の血を引くお方と見てよろしう御座いますな?」
管狐と名乗った狐は、真っ直ぐ時太郎の目を見て話しかけた。時太郎は暫し呆然としていたが、強く頷いた。
「そうだ、おれの母さんは信太三位の娘、時姫だ! おれの名は時太郎」
「おお! なんという出会い! わたくし、感動しております!」
狐は幇間のような大げさな仕草で顔を挙げ、ぺこりと頭を下げた。
時太郎は、お花と翔一に向かって、狐との遣り取りを説明した。二人は時太郎の言葉に、しきりと感心したように頷いている。
「時太郎さま、それにお供のお二人、実に好都合な時に──いや、もしかしたら実に危ない時に──いらっしゃった!
見れば、そちらの娘御は河童で御座いますな。しかも、烏天狗も従っております。そのお二人が揃っているのは天機が満ちている証拠で御座いましょう。皆様方に、信太一族の秘密を明かす時節が、やってきました!」
「信太一族の秘密?」
「左様で御座います。信太一族は表向き御所の陰陽師の役目を仰せつかっておるのですが、その実、この世界全体に関わる、ある重要な使命を受けているのです。その使命は、河童と天狗一族も関わっている。どうかお三人とも、わたくしに従い、その使命を果たして頂きたい! 伏してお願い奉ります」
時太郎の通訳に翔一は身震いした。
「た、大変なことになりましたね! この世界全体をなんて、想像もできません」
「でも、どうして、あたしたちが必要なの?」
お花の疑問に管狐は軽く首を振った。どうやら狐の言葉は時太郎にしか聞こえないが、狐は人間の言葉を理解するようである。
「それには皆様方を、ある場所へご案内する必要が御座います。こちらへどうぞ」