狐
「ははあ……」
一人うんうんと納得顔で頷いた。
「なにが〝ははあ〟なんだい?」
時太郎の問いかけに、翔一は櫛を受け取ると模様を日に翳した。
「この模様、我々のいる太陽系を表しております。ほれ、苦楽魔の天儀台でご覧になったあの太陽儀で御座いますよ」
「へえ……?」
説明されても、時太郎にはピンとこない。翔一は説明を続けた。
「この大きな丸は。太陽。で、その周りを取り囲んでいるのが、惑星で御座います。距離と大きさから、そう判断できるのです。古い理論に、星は固有の音を発しているという説が御座いました。この並びと、櫛の音が対応しているのなら、これは楽譜で御座いましょう。この音階の通りに櫛の歯を弾けば、さて、どうなるか……」
ごくりと時太郎は唾を飲み込んだ。何か、大きな謎が解かれる、そんな予感に胸が苦しくなる。
「やって見てくれよ」
時太郎は翔一を見た。翔一は大きく頷いた。
「では、演じまする……」
芝居がかった調子で宣言すると、櫛の歯を慎重に弾いていく。
ぽん──
ぴん!
ぱあぁ──ん……!
暫く三人は顔を寄せ、固まっていた。
「なにも起きないわ」
ふうっ、と息を吐いてお花が詰まらなそうに口を開いた。時太郎も肩の力を抜いた。
翔一は首を捻った。
その時──
「お呼びで御座いますか?」
囁き声に時太郎は「えっ」と顔を上げる。
お花と翔一は、ぽかんとしてる。
「何か言った?」
お花が時太郎に訊ねた。
「さっき、誰かが……」
「わたくしで御座いますよ! お呼びになられたので、参上いたしました」
声の方向を振り向くと、そこに一匹の狐が姿を見せていた。
が、その狐は普通と違っている。耳の形が変だ。ピンと立った狐の耳ではなく、妙に人間そっくりな耳をしている。
ぴくぴくと髭を動かし、狐は口を動かした。
「わたくし管狐で御座います。その櫛がわたくしを呼び出す音階を鳴らしたので、参上いたしました!」