怒り
時太郎はゆっくりと頷く。
「確かに、あんたの言葉に嘘は無さそうだ。でも、総てを話した訳じゃないな。どうして、おれに味方するんだ?」
「甚左衛門が【御門】との面会を望んでおる、と話したであろう。【御門】との面会を望んでおるのは、わが殿上総ノ介さまも同じなのじゃ。なぜならば【御門】との面会を果たした者だけが、征夷大将軍の称号を得ることができる」
時太郎の表情から藤四郎は言葉を言い添えた。
「判っておらんようじゃな。つまり征夷大将軍の位に就くとは、総ての武将の上に立つことを意味するのじゃ。甚左衛門めは、上総ノ介さまの上に立つ野望を抱いておるのじゃ。かつてわしの下に働いておったのが、何時の間にか、わしの同輩になったようにな。それだけは許せん!」
藤四郎の言葉には深い恨みが籠められているようだった。
時太郎はぷい、と横を向いた。
「結局、あんたらの権力争いじゃないか! そんなのに巻き込まれるのは御免だね。お花、翔一、行こうぜ」
三人は肩を並べて歩き出す。
藤四郎は背後から叫ぶ。
「時太郎、わしの忠告を聞け! よいか、軽々しく動くでないぞ! 甚左衛門は、おぬしを捕えるため、罠を張っている……」
お花は心配そうに話しかけた。
「ねえ、あの人の言うことを聞いたほうがいいんじゃない?」
「放っておけよ。やっぱり、あいつは信用できない」
時太郎はそれきり口を引き結び、ぐっと前方を睨むようにして歩を進めた。胸の中にはやり場のない怒りが満ちている。
おれたちは、あいつらの手駒なんかじゃない……!