雑踏
木本藤四郎と名乗った小男は、時太郎と一緒に京の都を歩きながら話しかけた。
「わしの同僚に、木戸甚左衛門と申す男がおってな。こやつが出世の足がかりにしたのが、信太三位の娘、時姫じゃ。時姫を【御門】に差し出したのが、切っ掛けじゃった」
「なんだと?」
時太郎の言葉に、藤四郎は大きく頷く。
「そうじゃ。お前の母親を捕えたのは、甚左衛門の奴なのじゃ。
しかし、やつは何を考えておるのか、まるで腹のうちが読めん。わしは密かに、やつを見張っておった。そのうち、お前を探っておることに気付いた。
時姫に時太郎、この名前の共通性から、おぬしは、やつの捕えた時姫の息子ではないかと推察したのじゃ。それで、わしも河童淵に人をやり、おぬしのことを調べることにした。おぬしは人の嘘を見抜く。おそらく、お前の母親の【聞こえ】の力を受け継いでいる証拠じゃろうな」
「それで、おれを待っていた理由は?」
「そうじゃ、それで、わしは配下の者を使って、おぬしの動きを見張らせた。狸御殿の一件も耳にしている。今では、このような便利な道具があるから、連絡は簡単につく」
藤四郎は懐から移動行動電話を取り出し、時太郎に示した。
「おぬしは母親に会いたいのじゃろう?
母親は御所に囚われておる。しかし御所に忍び込むことは至難の業じゃぞ。それに、先ほど言った甚左衛門のこともある。甚左衛門は多分、罠を仕掛けているに違いない。お前を捕え、人質にして【御門】との面会を企んでおるはずじゃ。なあ、時太郎。わしはお前の味方なのじゃ。
どうじゃ、わしの言葉に嘘があるか判るであろう」
時太郎は立ち止まった。藤四郎も立ち止まり、京の雑踏の中で顔を見合わせる。