朱雀門
時太郎は話しかけた。
「いったい、この列はなんだい?」
時太郎のぞんざいな口調に、行商人はちょっと、むっとしたようだった。それでも、話しかけてきたのが子供であると思ったのか、にこやかに返事をする。
「緒方殿の二輪車揃えの行列じゃよ。緒方殿は【御門】さまに、ご自身の戦支度を見せるため、旗下の将に召集を懸けられたのじゃ」
「二輪車揃え?」
「そうじゃ、見てみよ! なんと華々しい軍列じゃのう……」
感嘆の声を上げ、男は腕を組んだ。
超弩級人型傀儡が通過すると、地面がずしずしと激しく揺れた。ようやく軍列が跡絶え、見物人は夢から覚めたような顔つきになって三々五々歩き始める。
時太郎たちも京の都へ入るため、門へ近づく。
聳える門の上部には翼を広げた大きな鳥の彫刻が飾られてあった。時太郎は彫刻を見上げ、あまりの精緻な細工に、うっとり暫し見とれた。
「これは京の南を守る朱雀門じゃよ。見事なものじゃろう?」
先ほどの四十男が馴れ馴れしく話しかけてくる。振り返ると、小男は満面の笑みを浮かべ立っている。
「おぬしたち、京は初めてか? よかったら、わしが案内して進ぜようか?」
そっとお花が近づき、時太郎の袖を掴んだ。
「どう思う?」
小声で囁きかける。疑っている。
小男は急いで手を振った。
「なに、わしは何も企んではおらんぞ! ただ、親切に案内してやろうというのじゃ」
男の言葉に時太郎は微かな嘘を感じ取った。時太郎の表情を読み、小男は頷いた。
「さすが、河童淵の時太郎。わしの言葉の僅かな嘘を見破ったのじゃな」
時太郎とお花は立ち竦んだ。
「あんた、誰だ?」
鋭い時太郎の言葉に、小男はがらりとそれまでの人の好さそうな表情を掻き消し、目を鋭く光らせた。
「わしは緒方上総ノ介殿配下の木本藤四郎と申す。実は、お前を待っていたのだ」