南蛮茶店
京には東西南北、四方に門があり、北から玄武門、東の青竜門、南の朱雀門、および西の白虎門となる。その西にある白虎門の近くに、知る人ぞ知る通称「南蛮茶店」と呼ばれる店があった。大通りからは引っ込んでいる場所にあるので、よほどこの辺りに詳しくないと辿り着けない。
建物は二階建てで、一階が茶店になっている。内部は「南蛮茶店」と言われるだけあって、卓と椅子の南蛮方式の茶店で、給仕の娘は南蛮風の芽衣度姿になっている。出されるのは珈琲、紅茶、それに南蛮の酒である葡萄酒、火酒などが供される。注文すれば食事も頼め、まずは数奇者たちにとって話題に事欠かない店であった。
店構えが南蛮風ということもあったが、この店が「南蛮茶店」と呼ばれるのは、この店の二階を訪ねて、しげしげと南蛮人が姿を現すからだった。二階は南蛮人たちにとって特別な場所らしく、南蛮人以外は立ち入りを禁じられている。
ある時、好奇心の強い調子者が、店の者の反対を押し切り、無理やり二階に上がろうとしたことがあった。が、階段を上がるとなんと、その階段が勝手に下がり始め、いくら早足で駆け上ろうとしても元に戻されてしまった。
その調子者は、それでも手すりにしがみついて、なんとか階上へ登りついたが、その時何かが起きて、階段を転げ落ちてしまった。何があったか、当の本人に聞いても埒があかず、以来ずっと、誰も二階へと上がろうとはしなくなった。