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門戸短編集

ねむり月のみそか

作者: 門戸
掲載日:2026/07/15

 ねむり月(づき) みそか。


 山のけものは木のうろ、岩の洞(ほら)、土の床(とこ)に入って眠りを得たか。

 ときわ緑のお山の遠景は、白いもやに煙(けぶ)ってみえぬ、

 迷い児みなしご全て包んで、しろい綿巾の中にねむれ。


 諍いの家をあとにして、見上げた空は灰にむかう白。

 こがね陽のささぬ中から、ぼたぼたしずくが落ちやまない。

 つめたい石の家々、濡れた石だたみ、すべて沈黙の灰色。濃灰色。


 けぶるわたしのため息も、灰に向かう白。


 傘をあける。きいろい傘、ぶい。


 あざやか黄色の実がふくらんで柚子になる。

 まるい柑のでこぼこ表面に雨しずくが舞う。

 あわだち泡立ち、うずうず渦となって、あの金色の芳香がながれ出る。


 ぶいー! たのしき咆哮!


 きいろい傘は柚子の実となりあわだって叫び爆発する、

 地上に咲いた黄金の太陽。


 そこから光がうまれてのびて、灰にむかう白色の空に届く。

 柚子の光は、かなしみの白い湿気をやさしくかき分けた。


 みどり色に晴れた空が、そこにうふふと笑っている。

 はるかなる地の人びとが微笑む、やさしいまなざしの色。

 翠の空が、白いかなしみの湿気に取り巻かれ、黄金たちばなの陽光に照らされている。


 ぶいぶい、きいろい傘の下。


 視界いっぱい、閉じたまぶたの裏いっぱいに、わたしはその空をいつまでも見ている。


 つめたさかなしさ、虚しさつのる眠月(じゅういちがつ)のみそか。


【完】

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