銀河鉄道の忘れ物
こんにちは歩け豚です。小説、書きました。よければ読んで欲しいです。
雨上がりの午後、街路樹の葉から滴る雫がアスファルトに小さな銀河を作っていた。大学生のハルは、通学路の隅にある古びた看板に目を留めた。昨日までは確実になかったはずのその看板には、「お忘れ物承り所:午後六時より開店。形のないものに限る」とだけ記されている。
「形のないもの?」とハルが首を傾げたその時、時計の針がちょうど六時を指した。誘われるように看板の指す路地裏へ足を踏み入れると、そこには錆びついた真鍮のドアが静かに佇んでいた。
カランと乾いた鈴の音を響かせてドアを開けると、店内は天井まで届く棚で埋め尽くされていた。しかし、そこには鞄も傘も置かれておらず、代わりに並んでいたのは、大きさも形もバラバラな透明な瓶ばかりだった。カウンターの奥から現れた、星を散りばめたようなパジャマを着た猫背の老人は、眼鏡を指で押し上げながら「ここはね、人間がいつの間にか置いてきてしまったものを預かる場所だよ」と不敵に笑った。
瓶の中では、淡いピンク色の煙が揺らめいたり、小さな雷が閉じ込められていたりと、奇妙な光景が広がっている。老人の説明によれば、それは誰かの「初恋のときめき」だったり、大人になって忘れてしまった「魔法」だったりするのだという。
ハルは、最近の自分が何をしたいのか分からなくなっていた感覚を思い出し、自分も何かを落としていないか尋ねた。老人は黙って棚の最上段から、埃を被った小さな青い瓶を取り出した。それは、ハルが十五歳の夏、海岸で拾おうとして結局諦めた「根拠のない自信」だった。
受け取った瓶は手のひらの中で微かに温かく、蓋を開けると潮風の香りと共に真っ直ぐな光がハルの体の中に吸い込まれていった。その瞬間、絵を描くのが好きだったことや、世界はどこへでも行けると思っていたあの頃の感覚が鮮明に蘇る。代金はいらないと言う老人に礼を言い、ハルが店を出ると、外はもう夜の帳が下りていた。
振り返ると、そこにはもう真鍮のドアも看板もなかったが、雨上がりの夜空には見事な天の川が広がっていた。ハルは力強く地面を蹴って、駅への道を駆け出した。ポケットの中は空っぽだったが、その胸の中には確かに、重たいほどの確信が戻っていた。




