第2話:竜人の国
「グレイオン、おまえのような出来損ないは不要だ。今直ぐ、ここから出て行け!」
4年後の成人になる18歳の誕生日、俺は父親であるガリオン・エリアザード辺境伯に家を追い出された。
竜の姿になれない俺をプライドの高い父親が認める筈がないから、いつか家を追い出されることは解っていた。
荷物を纏めるために自分の部屋に戻る。俺たちはエリアザード辺境伯領にある城に住んでいるが、俺の部屋は離れの奥にある物置のような場所だ。竜人なのに『竜化』できない俺はずっと冷遇されていた。
「『竜化』できないだけで本当に追い出すなんて、ガリオン閣下も頭が固いわね」
幼馴染みのイリアが俺のベッドに座っている。イリアは俺と違って普通に『竜化』できるだけじゃなくて、父親である竜騎士団長イアン・コーネリアスの才能を受け継いで、すでに竜騎士として活躍している。
ちなみに竜騎士と言っても、竜を駆る騎士のことじゃない。竜の姿になって戦う騎士のことを、竜人の国カイスエント帝国では竜騎士と呼ぶ。
「イリア、勝手に部屋に入るなって言っているだろう。俺と一緒にいるところを見られたら、おまえまでガリオン閣下に目をつけられるぞ」
『竜化』できない俺は、ガリオンを父親と呼ぶことを許されていない。
「あら、私のことを心配してくれるの? 随分と余裕じゃない」
イリアは悪戯っぽく笑うと、自分の隣りに座れとベッドを叩く。
「追い出されることを予想していたから、準備はできているよ」
竜の姿になれない俺は、子供の頃から1人で生きる準備をして来た。
ベッドに座ると、いきなりイリアが俺に抱きついてベッドに押し倒す。
「おいイリア、どういうつもりだ?」
「竜の姿になれなくても、グレイオンが強いことを私は知っているわ。ホント、ガリオン閣下は人を見る目が無いわね」
イリアは舌で自分の唇を舐めると、俺の口を塞ぐ。
「もう会うなくなるんだから、最後にもう一度だけ……ねえ、良いでしょう?」
俺は身体を回転させてイリアの上に乗る。相手に主導権を取られるのは、好きじゃないからな。
貪るようにイリアの口を塞いで服を脱がせる。俺とイリアはそういう関係だ。
1時間ほど後、イリアは生まれたままの姿で満足そうに眠っている。鍛え上げられたイリアの靱やかな身体は、出るところは出ていて抱き心地が良い。
俺は服を着ると荷物を纏めて、イリアを残したまま部屋を出て行く。イリアは竜騎士団長の娘で、俺と一緒に出て行く理由はない。お互いに納得ずくの関係だ。
荷物と言っても数枚の着替えと、今着ている服と黒革の鎧、あとはベルトに下げている剣で全部だ。冷遇されて来た俺の部屋に大したものはない。
「グレイオン、最後にお楽しみだったみたいじゃないか」
外で俺を待っていたのは3人の兄のうちの1人、三男のスレインだ。
「盗み聞きするなんて良い趣味だな。俺に何か用があるのか?」
「グレイオン、何だその口の利き方は! おまえは弟の癖に……いや、もう家を追い出されたんだから他人だったな」
スレインは馬鹿にするように笑う。
「おまえが居なくなった後、イリアは俺が可愛がってやるぞ」
「止めておけよ。あんたじゃ、イリアは手に余るからな」
「何だと……『竜化』すらできないおまえが、生意気なこと言うな! 最後に泣きっ面を見てやろうと思ったが……興が冷めた。それにどうせおまえは……クックックッ……」
嫌な笑い方をしてイアンは立ち去る。イアンが考えていることなんて解っている。
「グレイオン様が出て行くなら、僕も一緒に行くよ」
このタイミングでクリフが姿を現す。こいつが隠れていることには気づいていた。
「俺は家を追い出されたんだ。クリフがついて来る理由がないだろう?」
「僕は使用人を辞めたよ。辞表を置いてきたら問題ないだろう」
真摯な顔で真っ直ぐに俺を見る。こいつは昔から真面目で人の良い奴だから、俺のことを心配しているんだろう。
「勝手について来るのは構わないけど、もう俺はエリアザード家の竜人じゃないから、グレイオンって呼び捨てにしろよ」
「うん、グレイオン。これからも、よろしくね!」
クリフが嬉しそうに笑う。何が嬉しいのか良く解らないが。
「クリフは俺がどこに行くか解っているのか?」
「え……エリアザード家を出で行くんだよね?」
「まあ、間違ってはいないけど」
城を出ようと正門のところまで来ると、黒塗りの馬車が止まっている。身長2m近い鎧姿の男が俺を待っていた。
「グレイオン様を辺境伯領の外までお送りするように、ガリオン閣下のご命令です」
こいつは竜騎士団の中隊長の1人、ドミニク・バルカンだ。見た目は20代半ばだけど、本当の年齢は200歳を超えている。
竜人は20歳になる頃まで人間と同じように成長する。その後も竜の身体は年とともに大きくなるが、人の姿はほとんど変化しない。
「グレイオン、これって……」
クリフが戸惑っているけど、こうなることは想定していた。
「ドミニク、もう『様』を付ける必要はないだろう。下手な芝居なんてしなくても俺は逃げない。クリフを一緒に連れて行くのは構わないよな?」
父親であるガリオンが本当は何を命令したのか解っているけど、俺は素直に馬車に乗る。
「あの……お邪魔します……」
一緒に馬車に乗ったクリフはドミニクに睨まれて、居たたまれない感じで小さくなっていた。




