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第24話:憲兵隊


「グレイ、解っていると思うけど……」


「ああ、さすがに今回は俺も反省しているよ」


 とりあえず、レベッカたち『野獣の剣』のメンバーたちに謝った。だけど賠償金くらいは当然払う必要があるだろう。


 ダンジョンでは自己責任と言っても、下手をすれば俺のせいで死ぬところだったんだからな。『螺旋(らせん)迷宮』にいた他のハンターについては、俺がしたことをどこまで話すか、それ次第だな。


 レベッカたちは今でも半信半疑で呆けたような顔をしている。ダンジョンを破壊するなんて、呆れられても仕方ない。


 ジャスティアのところで1年以上鍛錬したことで、俺は確実に強くなっている。

 エリアザード伯爵領のダンジョンを攻略したときは、ダンジョンを破壊したことはない。だけどあの頃の俺でもダンジョンを破壊できたかも知れない。


 それでも破壊なんてするものじゃないな。自分で言うのも何だけど迷惑極まりない。これからダンジョンを攻略するときは、もっと自嘲しないと。


 『螺旋迷宮』の入口まで戻って来ると、見覚えがある獣人が待ち構えていた。

 目深にかぶった帽子と白い髪。琥珀色の瞳にゴーダリア王国軍の黒い軍服。昨日夕飯を食べた店で会った狐の獣人だ。


 狐の獣人は20人ほどの兵士を従えて、俺たちの前に立ち塞がる。


「そう言えば、自己紹介がまだだったな。私はゴーダリア王国軍憲兵隊中佐ライラ・オルカスだ。貴様たちに訊きたいことがある」


 心当たりは当然ある。


「こっちに用はないけど、拒否権はないんだよな?」


「物分かりが良くて助かる。このダンジョンで起きた地震と、それに続く魔物の暴走。おまえたちはその原因について何か知っているな?」


 さすがに俺がダンジョンを破壊したことが原因とは、こいつも思っていないだろう。


 だけどレベッカたちには俺が破壊した場所を見せた訳だし、俺のせいで死ぬ可能性があったんだからな。口止めするつもりはない。


「地震のせいで魔物の暴走が起きた。私たちはダンジョンの下層部で、崩壊したところを見て来たから間違いない」


 レベッカが淡々と説明する。


「暴走した魔物は私たちが倒した。魔物の暴走はもう収まっていると思う。私たちが知っているのはそれだけ」


 レベッカは俺について何も言わなかった。『野獣の剣』の他のメンバーたちも。


 俺がダンジョンを破壊したなんて言っても、簡単に信じられるものじゃないけど、俺を庇ってくれたのか?


「おい、そこの人間……確かF級ハンターのグレイだったな。貴様は何か知っているか?」


 名前を憶えているってことは、目をつけられているのは確実だな。


「俺はソロで潜っていたから、こいつらとは一緒じゃなかった。だけどまあ、だいたいそんなところだよ」


「『螺旋迷宮』にソロで潜っただと?」


「ああ、その通りだよ」


 これ以上余計なことを言うつもりはない。俺がダンジョンを破壊したところを、誰かが見た訳じゃない。幾らでも良い訳ができると言うか、そもそも俺が破壊したとは思わないだろう。


「そうか……ダンジョンから戻ったばかりのところ、悪かったな。魔物の暴走を止めたのはご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」


 そのまま俺たちが立ち去ろうとすると。


「グレイ……もしかして貴様は下層部どころか層部に潜ったんじゃないか?」


「そんな筈がないだろう? 俺はソロだから安全第一だ」


 狐の獣人ライラは何も答えなかった。俺たちはライラたちの前を素通りして『螺旋迷宮』を後にする。


※ ※ ※ ※


 その日の夜。今日もレベッカたち『野獣の剣』のメンバーと、一緒に夕飯を食べることになった。昼間のことで色々と話すことがあるからだ。


 場所はガゼルの行きつけの店。元ハンターが経営している酒場らしい。

 経営者の元ハンターはガゼルの師匠らしく、自宅の一部として使っている普段は使わない個室を提供してくれた。ここなら他の奴に聞かれる心配はない。


「とりあえず、これが賠償金だ」


 1人金貨30枚。結構な金額だけど、ここに来る前に迷宮都市トレドのハンターズギルドに行って、死蔵していた魔物の素材を売って金に換えた。

 上層部の魔物の素材だけで足りたから、余計な詮索をされることもないだろう。


「別に口止め料って訳じゃない。おまえたちが俺のことを他の奴に話すなら、好きにして構わないからな」


 A級ハンターパーティーが全滅する可能性があったんだから、金貨30枚で賠償金が足りるのか? 賠償金なんて払ったことがないし、相場が良く解らない。


「まあ、これくらいは払って貰わねえとな」


 虎の獣人のギースが憮然とした顔で、金貨の袋を懐に入れる。


「たが、そんなことよりもだ。グレイ、てめえはいったい何者なんだ? ダンジョンを破壊するなんて、どう考えても只の人間の仕業じゃねえだろう」


 『野獣の剣』のメンバー全員が俺を見ている。


「私はお腹が減った。早くご飯を食べよう」


 だけどレベッカだけは別のことを考えていたらしい。


「おいレベッカ、今はそれどころじゃねえだろう? 俺たちはグレイのせいで死ぬところだったんだぜ!」


「死んだとしてもグレイのせいじゃない。弱いから死ぬ。それに私たちは誰も死ななかった。賠償金も貰ったから何の問題もない」


「おい、そういう話じゃ……」


「ギース、食べながら話しても構わないだろう? 俺も腹が減っているからな」


 メシを食べながら『螺旋迷宮』の前で待ち伏せしていた狐の獣人ライラ・オルカスと、ゴーダリア王国軍の憲兵隊のことを訊く。


 憲兵隊とはフェンリル直属の部隊のことで、憲兵隊の指揮官であるライラは、迷宮都市トレドを支配するフェンリルの右腕として知られている。

 ライラの実力はA級ハンターを軽く凌ぐそうだ。


 腹が満たされて落ち着いて来た頃、キースが憮然とした顔で俺を見ている。


「ギース、俺は自分が何者か話すつもりはないからな。今回の件は謝るけど、そもそもの話、おまえたちが勝手について来たんだろう。これ以上詮索するなら、もう俺に関わるなよ」


 『野獣の剣』のメンバーは只の知り合いというだけの関係だ。今回は迷惑を掛けたから謝ったけど、俺の正体を教えるつもりはない。


「グレイ、そんな言い方をしなくても……」


 クリフが困った顔をしている。クリフは今日『野獣の剣』のメンバーと一緒に行動していた。こいつは真面目で良い奴だから、俺と『野獣の剣』の仲を取り持ちたいんだろう。


「グレイ、それは困る。私はまだ君と戦っていないから!」


「レベッカ、おまえはそればかりだな。そんなに俺と戦いたいのか?」


「うん。私は最強のハンターを目指しているから、強い相手と戦いたい」


 迷惑な話だけど、レベッカはどこまでも真っ直ぐだな。


「だったら明日、おまえと戦ってやるよ。それで全部終わりってことなら」


 今回のことは俺が全面的に悪いことは解っている。本気で反省もしている。

 だけど、こいつらとは一緒に居過ぎた。だから巻き込んだのも事実だろう。


「グレイ……本気で言っているのか?」


「そうですよ。レベッカは貴方のことを本当に気に入っているんです」


 ガゼルとシーダが止めようとするけど。


「グレイ、本当に戦ってくれるの? 絶対約束だからね!」


 当のレベッカは嬉しそうに言った。

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