3.これって、アイドルの仕事?
「えーっと、こちら異常なしです」
『オーケー! なにかあれば、僕の方から連絡するよ!』
無線から、社長の声が聞こえてくる。
アタシは何やら警備員のような恰好をして、ライブ会場に潜入していた。月影社長曰く、ライブでのトラブルに対応する仕事、とのことだったけど。
それって、そもそもアイドルの仕事なのだろうか。
「……いや、うん。アタシは駆け出しだし、文句は言えないよね」
どちらかというと、服装の通り警備会社の請け負うものに思えた。
だけどせっかくもらった仕事なのだから、頑張らなければ。アタシはそう思って、しばらく暗がりからライブの様子を眺めていた。たしか今回の主催は天宮さんの所属する事務所、トゥインクル・ノヴァがしていたはず。そこに所属する新人アイドルたちが、一生懸命にパフォーマンスをしていた。
さすがは大手なだけあって、ウチとは大違いだ。
そんなこと、月影社長の前では口が裂けても言えないけれど。
『もしもーし、スズメくーん?』
「あ、はい。社長、どうしました?」
『ちょっとハプニングが起こったから、対応してくれるかな』
そう考えていると、見透かされたかのように無線が入った。
アタシが返事をすると社長は、気のない謝罪をしながらこう続ける。
『小さな子供がね、立ち入り禁止のところに入り込んじゃったみたいでさ。親御さんも困っているみたいだから、できるだけ穏便に連れ帰ってほしいんだ』
「なるほど……?」
つまるところ、迷子の捜索、と。
相も変わらずアイドルのそれと思えないけど、その子供はきっと不安だろう。その助けになるのであれば、アタシとしては動かない理由はなかった。
そう考えていると、手にしたスマホに何やら情報が送られてくる。
『そこに表示されてるマップに赤い点があるでしょ。その子は、そこにいるから! あとはよろしくね!』
「はーい」
ひとまず、行動に移してから考えることにした。
穏便に済ませるということで、関係者の目に触れないよう気を付けながらアタシは移動する。そんなこんなで、関係者オンリーの区間を進むこと十数分。
マップに表示された赤い点の近くまできた。
すると何やら、何人かの男性の声が聞こえてくる。
「いやあ、今回も良い素材が手に入ったな」
「これで研究も前に進み、俺たちの給料も上がるはずだ」
耳を澄ませると、そんな感じの内容だった。
素材とは、いったい何だろう。そして研究とかも口にしていたが、とかくアイドルのライブ会場で聞くには不思議な単語ばかりだった。
アタシはそのことが、ほんの少しだけ気掛かりだったけど――。
「まぁ、なにかゲームの話かもね」
そう考えるのが、きっと自然だろう。
そんなわけでアタシは人の気配が消えるのを待って、子供のもとへ。すると、
「ふ、ふええぇ……!」
そこにいたのは、一人の男の子。
不安からか、ずいぶんと怯えてしまっている様子だった。
アタシはその子のもとに駆け寄ると、ある異変に気が付く。迷子と聞いていたのだが、どうにもおかしい。だって、迷子だというなら――。
「どうして……?」
簡易ながらも、手足が縄で縛られていた。
慌ててそれを解いたのだけれど、アタシの中には何故が残る。
「……いったい、どういうことなの?」
男の子をあやしながら、アタシは思わずそう呟く。
お母さんのもとへ送り届けるまで、その疑問はついて回るのだった。
アイドル……?
次回は22時予定です。
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