2.憧れの理由。
「あーうー……すみませーん、誰かー? このチラシ受け取ってくださいー」
レッスンもまともに受けていない。
それこそ超駆け出しアイドルで、なにもできなかった頃のこと。アタシはとあるイベントの運営サポートに借り出されていた。そして割り当てられたのが、イベントのチラシ配り。
だけど異能が『陰』であるアタシが、そもそも認識される可能性は低かった。
結局、数枚しか捌けないまま残り時間が一時間に。
「ヤバい。このままだと、サボり認定される……!?」
最低限、これだけは配ってほしい。
それもかなり優しいノルマを出されていたのだけど、そこにすら到達していなかった。このままでは、アタシの印象は最悪だ。それだけじゃなく、何よりも事務所が謝罪することにもなる。果てにはいよいよ使い物にならないとして、クビにされるかも……!?
「ぬおおおお、どうすれば良いの!?」
「……あの、手伝おうか?」
「へ……?」
そんな最悪の事態を想定してうめいていると。
とても綺麗な声の女の子に、少しばかり困惑したように話しかけられた。驚いてその子の顔を見たアタシは、さらに自身の目を疑うことになる。
何故ならそこにいたのは、
「え、もしかして天宮美鈴……さん!?」
すでに超有名なトップアイドルとして活躍している大先輩、だったのだから。
マスクに伊達メガネ、帽子を被っていても分かるほどのオーラ。これがホンモノの芸能人というやつか、と呆気に取られてしまった。だけど次第に冷静になって、彼女の出で立ちとイベントのスケジュールから、あることを察する。
「どうして、ここに? 天宮さんは明日出演で、今日はお休みのはずじゃ――」
「あぁ、うん。休みだけど、会場を見てみたくて」
「そ、そうなんですね!?」
訊ねると彼女は、にこやかに答えた。
そしてまるで当たり前のように、アタシの手にあるチラシを何枚か取っていく。
「え、あの……何を?」
「言ったでしょ? 手伝おうか、って」
「いやいや、いまからこの量は無理ですって! それに――」
大先輩にそんな手伝いをさせてしまうなんて、申し訳なくて仕方なかった。
そう思っていると、こちらの言葉を遮って天宮さんは言う。
「いいの。さっきから貴方が頑張ってたのは、見てたから」
「…………え?」
それに呆けていると、彼女はマスクを外して続けた。
「ずっと頑張って、一生懸命に声掛けしてたのを見てたの」――と。
そして、その直後だった。
なにか彼女のまとう雰囲気が、一気に華やかになったのは。
思わず黙っていると、天宮さんは周囲の人々に向けてこう言った。
「すみません! みなさん、このチラシを受け取ってくださいませんか?」
――すると、どうだろう。
先ほどまで見向きもしなかった往来の人々が、一斉にこちらを振り返った。そして何を言うでもなく順番に、天宮さんの手からどんどんチラシを受け取っていく。
何枚も、何枚も。
とても無理だと思われた量が、あっという間になくなってしまった。
「すごい……!」
そのあまりの出来事に驚くとともに、アタシは憧れたのだ。
こんな人になりたい、と。
天宮さんのように、誰かのために動ける。
そして一人で困っている子でさえも、笑顔にするようなアイドルになりたい。アタシにはその瞬間から、天宮美鈴という大きな目標ができたのだった。
◆
「その瞬間から、アタシの推しは天宮美鈴さんなんです!!」
「なるほど。キミの想いは、良く分かったよ」
熱弁を終えると、月影社長は何度も頷きながら拍手をしていた。
その様子に満足したアタシは、静かに礼をして再び動画鑑賞に移ろうと――。
「そんなスズメくんにピッタリの仕事があるんだけど、どうかな?」
「ピッタリな、仕事……?」
月影社長の言葉に、イヤホンをつける手を止めて。
アタシは首を傾げるのだった。
次回更新は、頑張れたら20時! 今日はあと2話いくぞ!
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