1.アイドル扱いされてない!
「スズメくーん、この前のライブのアーカイブ見るかい?」
「はい! もちろんです!!」
そうして、見事にオーディションを合格してしばらく。
アタシはここ『スターダスト・エージェンシー』で駆け出しのアイドルをやっていた。日々レッスンに励み、時々に他のアイドルのライブでパフォーマンスをやってみたり、メディア露出はないけれど楽しく活動できている。
今日はどうやら月影社長が、他事務所の応援でやったバックダンサーの映像を持ってきたらしい。ただ気になることは、
「いやあ、今回のは面白いよ!」
「……え、面白い?」
何やら社長がニヤニヤと、不可解な笑みを浮かべていことだった。
そもそも、バックダンサーの映像が『面白い』とは何か。アタシが首を傾げていると、彼のノートパソコンでは某サイトの動画が流れ始めた。
『みんなー、今日は盛り上がっていくよー!』
『ワアアアアアアアアアアアア!!』
ステージのセンターで、観客に声をかけるアイドル。
彼女はたしか『美声』という異能で、人々を惹きつける才能の持ち主だった。ただダンスは上手くないので、周囲に動きを出せるパフォーマーを配置している。
その中の一人がアタシなのでけど、
「ほら、そろそろだよ! キミの見せ場!!」
「ん……?」
一番端で踊っていただけの自分に、見せ場なんてあったかな。
そう思ってみていると、
「ほら、ここ!」
「………………」
なんという不幸か。
アタシに対してだけカメラのピントが合わず、黒い影だけが蠢いているようになっていた。いったいどうやったら、そのようになるのか。そうはならんだろ、なっとるやろがい的な。とにもかくにも、アタシが映るとそれは恐怖映像でしかなくて――。
『これ、なに……?』
『もしかして、お化け!?』
『ひえぇ、これはお祓いに行くべきでは……』
よくよく動画のタイトルを見れば、そこには『心霊映像』とあった。
そしてコメント欄には、以上のようなものが並んでいる。
アタシはそれを見て、思わず――。
「アイドルのことをお化けいうな!!」
そうツッコミを入れていた。
するとそこで動画は終了しており、おススメの動画に表示されているのは心霊系のものばかり。アタシが抗議するように月影社長を見ると、彼は必死に笑いを堪えていた。
おそらく『面白い』とは本音だろうが、本人の前で笑ってはいけないという配慮。――いいや、もういっそのこと笑ってくれ。見せるくらいなら、腹を抱えて笑ってほしかった。
「……うぅ、なんてもの見せるんですか!」
「いやー! ごめんごめん! なんかSNSでバズってたからさ!」
「こんなのでバズりたくありません!?」
「あっはっは!!」
こちらが訴えると、そこでついに堪え切れなくなる社長。
笑われたら笑われたで腹が立つけど、ここで騒いだら相手の思う壺だった。アタシはそう考えて、叫びたい気持ちをぐっと我慢する。
そして、その代わりに――。
「……社長。ちょっとパソコン、借りても良いですか?」
「いいけど、どうしたんだい」
「いや、代わりに癒しの動画でも見ようかと」
「ふむ……?」
こちらが訊ねると、社長はそう答えながら首を傾げた。
ひとまず了承は得たので、アタシはキーボードを叩いて検索をかける。
「『天宮美鈴』……っと」
その名前を入力すると、表示されたのは大量のライブ映像や、ミュージックPV。アタシはその中でのお気に入りをクリックして、流れる音楽に聴き入った。
そうしていると、社長は何やら考えながらこう訊いてくる。
「その子は、キミのお気に入りかい?」
「はい、アタシの推しの『天宮美鈴』さんです」
それに対してアタシは、知らないんですかぁ、と挑発するように答える。
そしてパソコンを持ち上げ、社長にこう布教するのだった。
「輝くような美しい長い金色の髪に、透き通るような肌。円らな瞳に整った顔立ち、そして努力によって磨かれたその歌声! 華やかな立ち振る舞いは、まさに理想のアイドルです!」
「はっはっは! キミとは真反対だね!」
「ぐぬぬ。と、とにかく――!」
たしかに、黒髪に平凡な顔立ちのアタシと彼女は違う。
だけど同じアイドルとして、自分は美鈴さんを――。
「アタシは、美鈴さんを尊敬しているんです!!」
そのキッカケは、アタシがアイドルになってから。
とあるライブのお手伝いに向かった際、例によって『陰』の影響で凹んでいた時のことだった。彼女はそんなアタシを気遣って、声をかけてくれたのである。
次回更新は20時くらい!