表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が世界を滅ぼすまで  作者: 此宮
第1章
3/11

3話 同じ顔の双子

第1章-3話

翌日、9/2の昼休み。

私は放送で呼びだされ、茜の通う特別支援学級の、その隣にある保健室を訪れていた。


「あ〜〜〜〜! もうあたしのバカ……新学期早々有給を使ったあたしのバカ……」

私を呼び出した"彼女"は、人目を避けるための薄いピンクのカーテンを閉めきり、そのベットの上でゴロゴロと寝転がりながら、"保健医"らしからぬ態度でウジウジと呟いていた。

そして、そのベットの横の椅子に座らされ、なぜかそれを見せつけられている私…

「ねー先生ー!! これもう私帰っていいよねー!?」

私がそう言って振り返り、カーテンを開けようとすると、彼女はものすごい勢いで起き上がり、私の腕を掴みにかかってくる。ぎゃーーーこわい。

「……まちなさい! 世明ちゃん! 教師の愚痴を聞くのも生徒の義務よ!!」

「そんな義務初めて聞いたよ!?」

私が強めにそう言っても彼女の私の腕を掴む力が弱まることはなく、私は諦め大きなため息をつくと彼女が座るベッドに私も座り込んだ。

彼女の名前は『日ノ(ひのわ) (ゆい)』。

こう見えて、この学校の保険医である。

彼女には、保健室の常連である茜はもちろん、結先生が高校時代に吹奏楽部に所属していたという関係で、私が所属しているこの学校の吹奏楽部の手伝いをしてくれていたりと、かなり私もお世話になっている、若いけれどしっかりしていて、とっても頼り甲斐のある先生だ。一見すると、だが。

……しかし、

「ほんと…どうして茜くんが保健室に来てたのに…。あたしはなぜ休んだ…」

結先生は再び私の座るベッドに横になりながら、先ほどのようにブツブツと呟く。

普段クールビューティでしっかり者の日ノ輪先生で通っている先生のこんな姿は、もう見慣れてしまった私以外の人にとって、かなり異様な光景に違いない。

また本人もそのクールビューティな印象を壊したくないらしく、カーテンで囲まれた私の目の前のここでしかこの本性を決して出してこないのだ。

「そんな〜茜が保健室に来ることなんて珍しくないんだからさ〜〜」

私が適当にそう返すと結先生は急に起き上がり、何故かかわいそうな物を見るような目で私を見ると、アメリカ人さながら、両手を上げてため息をついた。

「まったく、世明ちゃんはまだまだ中学1年生ね〜」

そんな当たり前のことを言われてどんな態度を取れば良いのかがわからず、つい私は彼女を見てポカンとしてしまう。

それに彼女は満足がいかないのか、咳払いをすると、私を指差して高々に言う。

「あのね?? たしかに! ! 茜くんはこの学校随一の保健室の常連さんだけど、だけど!!!!!」

先生はスーッと大きく深呼吸。

そしてシャウト。

「"素数サマ" が来るのはレアなの!!!!! 10回に一回なの!!!!! 月一なの!!!!!」

結先生は、鼻息荒くそう言い放った。

……そう、日ノ輪結、25歳。は事もあろうに、

特別支援学級の担任。

もじゃもじゃヘアの無愛想な男。

上手裏 素数、32歳。

彼に本気で恋をしている。

……率直に言って、あまりにも釣り合わない。

若くて美人で頼り甲斐のある結先生と違い、素数先生はたしかにまああブサイクではないものの、無愛想かつ不衛生かつ……と特に女子生徒からの嫌われようはかなりのものがあった。

「……ほんと、なーんで結先生ソスウ先生のことなんて好きなのかな〜〜?? もっと良い人いない??」

私がそういうと、結先生はまた、「世明ちゃんは中学一年生なんだから〜」と言いたげな表情を見せるので、私は対応できないそれから逃れるようにこっそり目をそらす。

「……あのね? 世明ちゃんはわかってないかもしれないけど、あたしと素数サマは運命の赤い糸で結ばれてるから」

結先生は私の様子を見かねてか、安心してくださいとでも言いたげに自信満々でガッツポーズをする。

相変わらずそれはすごい自信、というより確信で、彼女はそんな様子のまま話を続ける。

「だってあたしが高校一年生の時ーー」

「ソスウ先生が土手でトランペットを吹いてるのに憧れて吹奏楽部に入って、教育実習に来たソスウ先生に憧れて医者から保険医に進路変えたんでしょ?? それもう100回くらい聞いたよ!!! もういいよね帰るね!!!!」

私はそう言ってベットから立ち上がり、再びカーテンを開けようとするのを、やはりまた恐ろしい雰囲気をまとった結先生に阻止される。

……今日も長くなりそうだな。


ーーーーーーー


「最近気づいたことがあるんです」

結先生は、いつものようにひとしきり上手裏先生の魅力を語り尽くした後、急にまたベットに横になり今度は一変して冷静に言った。

唐突な先生のそんな様子に、なぜかベット脇に立つ私も背筋を伸ばしてしまう。

彼女は深呼吸して一言。

「…素数サマは、茜くんといるととんでもなく優しい。」

結先生は重大そうにそう言い、その直後なぜか頭を抱えため息をついて、なかなかその体勢から戻ろうとしない。

「……結先生一体どうしーー」

「尊すぎるでしょーー!!!!!!!」

「……え?」

結先生のいきなりの絶叫に、私はつい立ち上がり一歩後ずさりしてしまう。

「何だろう、何だろうね?何だろう。なんかね、パパ感がね、あるんだよ、そう、茜くんへの優しさ、パパ、素数サマ、あ、好きです、あ、あーーーー!!!!」

結先生はなぜかカタコトでそういうと、顔をまくらに埋めて再び絶叫。

「……へー」

私は反応に困り、今度こそカーテンを開き、保健室から出ようとする。

すると、先生が冷静でなくなったせいか今度は先生に止められず、保健室から出られる……と思いきや。

先生は急に起き上がり、一言。

「ごめん、今日は普通に用事あって呼び出したからまだ行かないで」

「今までの話いらないよね!!!」


ーーーーーーー


「はいこれ、クロス」

「わーーありがと!!」

結先生は保健室の机から一枚の布を私に渡す。

これは楽器を磨く時などに使うクロスという布で、学生時代に買ったまま使っていなかったそれを私に譲ってくれる約束をしていたのだ。

「そういえば、夏休みの予選見に行ったけど、錫守さんすごいわよね。一年生にしてソロを任せられるだなんて。」

結先生はカーテンの内側とは一変して、いかにもクールビューティと言った感じで話しだす。

これが、彼女の完璧な外面である。

「そんなことないよ! それにダメ金だったしね。

……あ〜〜悔しいな〜〜!!」

私はこっちの結先生にも、さっきとあまり変わらない態度でそう言う。

「確かに残念だっだわね……でも錫守さんのソロは上手かったわよ? 部長から聞いたけど、トランペットはもう4年やってるんでしょ? 錫守くんからプレゼントされて、うふふ」

先生は穏やかな口調で、それでいて少し茶化すように言った。

……ほんとすごい変わりようだよな。

私は夏休み前から実に1ヶ月ぶりの先生の二重人格っぷりに戸惑いながらも話を続ける。

「せ、先生よく知ってるね〜〜

そう! 茜が小さい頃からず〜っと、誕生日"プレゼント"のことを誕生日"トランペット"と勘違いしてたんだよ〜!

それでお小遣い貯めて結構良いトランペットくれて……ほんと面白いよね〜〜」

「……僕がどうしたの??」

「…えっ、どぅわっ!!??」

いきなり背後から声をかけられ、私はついJC(女子中学生)らしからぬ声を出してしまう。

どうやら気がつかないうちに茜も保健室に入って来ていたようだった。

「こんにちは〜日ノ輪先生」

「あら、錫守くんこんにちは」

茜の挨拶に、結先生はいつも通りのクールビューティスマイルを返した。

それはまるで、さっきからまで尊いだのなんだの言っていなかったかのように…

「……今日上手裏先生は?」

「さあ〜? またどこかでお昼寝とかしてるんじゃないかな??」

ただ、愛しの素数サマの行動のサーチには余念がない。

「で、茜どうかしたの??

……もしかして、またどっか具合でもーー」

私が心配しながら言うと、茜は笑顔で首を振った。

「よっちゃんと先生の楽しそうな声が聞こえたから、僕も混ざりたいな〜って思って、それで来ちゃた。えへへ。」

その茜の言葉に、自分の絶叫も聞こえてしまったのではないかと、結先生が見るからに茜を警戒するが、茜本人はそれには気付いていないようで、不意に私へ近づくといきなり私にそっと耳打ちをしてくる。

「……あと、せっちゃんのことで、ちょっと」

茜はそう言って、少し自信ありげな笑顔を見せた。


ーーーーーー


「…まあ、思った通りっていうか。」

「やっぱり勝手に違う学校には入れないか〜」

家と学校の行き来しかしないような世界が夜を明かせる場所。

……といえば家か学校しかないのではないか!

という茜の推理は、うちの最寄駅から4駅、バスで15分という時間を要したにもかかわらず、流石に学校の中に入ることも、外から学校内を覗くこともできず無駄足に終わってしまった。

ここを訪れた時間が私の部活後ということもあり、ここの学校の生徒も殆どが帰ってしまったようで、9月も始まったばかりでまだ明るいはずの空もだんだんと暗くなり始めていた。

「仕方ないね〜もう帰ろっか?」

私がそういうと、茜は少し悲しそうな表情をする。

しかし茜は昨日体調を崩していたばかりだ。世界が心配とはいえ、あまり無理はさせられない。

私はそう思い、もう少し世界を探したいであろう茜をそっと促しながら、またバス停まで戻ろうとしたその時。

「世界ちゃんー!!」

後ろから、そう呼ぶ声がする。

私たちはびっくりして、すぐに後ろを振り返る。

するとそこには、世界のものと同じデザインの制服を着た1人の女子生徒が、こちらに向けて笑顔で手を振っていた。

しかし、少しすると彼女は何かに気づいたのように、少し恥ずかしそうにしながらこちらに走りよってくる。

「……あの、ごめんなさい! 私ったら、あなたのこと世界ちゃんだと見間違えちゃって。」

彼女はそういって、私に頭を下げた。

…なるほど、そういうことだったんだ。

私は合点し、彼女に微笑みかける。

「いえいえ! 全然大丈夫ですよ? ……よく間違われますし」

私はそう言ってその女子生徒に軽く会釈をし、茜の手を引いて足早にその場を後にした。

……そっか。私、世界に似てるんだ。

確かに私と世界は一卵性の双子なんだから、間違われるほど似てるのは当たり前といえば当たり前だ。それこそ昔は、わざと同じ髪型にしたり色違いの服を着たり、と。私達が似ているということは私達の個性であった。

ただ、私たちの間にある溝は、そんな当たり前のことさえも忘れさせていたのだ。

「……いいこと思いついたかも。」

そんな時、茜がポツリと呟く。

そして彼は私の顔を見つめると、いつものエンジェルスマイルを見せる。

しかし今だけはその笑顔に、なにやら悪い予感を感じた。


……この時の私は知る由もなかった。

翌朝、私は世界の通うこの学校の前にいて。

いつものショートヘアではなく、世界のような長い髪のかつらをつけて。

いつものセーラー服ではなく、世界の制服であるブラウスに袖を通して。


世界のふりをして学校に行くことになるだなんて……



☆世界が滅亡するーー?まで:あと 2日

更新時間は適当です、すみません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ